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韓国バイオ各社、新しい機序の抗癌治療剤物質を積極開発


  • 韓国バイオ各社、新しい機序の抗癌治療剤物質を積極開発
  • 大きくなる抗がん剤市場


人類の生存に最も脅威となる疾患の一つは依然として癌だ。医療・製薬業界では、複雑な転移過程を通じて拡散する癌細胞を根源的に除去し、最終的に癌を克服することを目標としている。この過程でさまざまな抗癌治療技術が開発されている一方で、抗癌剤もまた進化を続けている。

抗癌剤の始まりは第二次世界大戦時にイギリス軍が化学兵器として使用した別名「マスタードガス」だ。マスタードのにおいがするガスに触れて死んだ人の白血球が減少したという点を発見し、マスタードガスを血液癌の治療に使用した。これを基点にして1990年代半ばまで、第1世代の抗癌剤は「化学抗癌剤」が主流を成した。細胞分裂を抑制する有害物質を注射して癌細胞を攻撃するわけだが、きつい副作用が問題だった。周辺の正常な細胞まで攻撃することで正常な臓器に負担を与え、患者は重度の嘔吐と胃腸障害や脱毛などの困難を経験しなければならなかった。

このような化学抗癌剤の副作用を軽減するために、1990年代末から登場したのが第2世代の抗癌剤と呼ばれる「標的抗癌剤」だ。文字通り癌細胞のみを標的として精密打撃するように攻撃し、正常な細胞まで攻撃していた化学抗癌剤の副作用を最小化したものだ。しかし標的抗癌剤も弱点があった。癌細胞が深刻なレベルに転移した状態では、抗癌治療剤としての効果が低下した。標的抗癌剤を使うことができる患者は制限されるうえに、一定期間が経過すると耐性が生じて薬効が低下してあまり効かなくなることも欠点として指摘された。

このような問題を克服するために出てきた第3世代の抗癌剤が、まさに2010年代に入って本格的に開発された「免疫抗癌剤」だ。患者の免疫力を育て、癌と戦える力を高めるというアイデアから出発した。昨年のノーベル生理学・医学賞を共同受賞した京都大学の本庶佑教授と、米テキサス大学MDアンダーソン癌センターのジェームズ・アリソン教授らの研究分野が免疫抗癌剤だ。

本庶教授が免疫細胞(別名T細胞)で発見した核心物質「PD-1」は、免疫抗癌剤を開発するきっかけになった。癌細胞では「PD-L1」というタンパク質が発現し、その反対側の免疫細胞では「PD-1」や「CTLA-4」が生成されるが、これらの細胞物質が結合すると免疫細胞が癌細胞を認識できなくなる。したがってPD-L1とPD-1およびCRLA-4の間の結合を遮断する方式の「免疫関門抑制」を通じて、T細胞(免疫細胞)が癌細胞を正確に認識できるようにして癌細胞を抑制しようというわけだ。免疫細胞が癌細胞を認識できないようにするものが2つの細胞間の結合にあると見て、これを防いで免疫システムの活動を正常化するわけだ。

国内で出荷されている免疫抗癌剤は総4種であり、免疫関門抑制を行う部位がどこにあるかによって異なるが、究極的な治療結果は同じだ。 韓国MSDの「キイトルーダ(Keytruda)」と「オプジーボ(Opdivo、BMSと小野薬品の共同生産)」はT細胞のPD-1に作用して、癌細胞に付着しているPD-L1との結合を遮断する。一方、BMS(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)社の「ヤーボイ(Yervoy)」はT細胞のCTLA-4に、ロシュ(Roche)の「テセントリク(Tecentriq)」はPD-L1に作用して、免疫細胞と癌細胞の結合を妨げるようにする。アリソン教授は「癌細胞は体内の免疫システムから攻撃されないようにする特別な能力があり、これを解除することが重要」だとし、免疫抗癌剤の原理(免疫関門抑制)を説明した。

このほかに癌細胞が保有している腫瘍特異的抗原を癌患者に投与して免疫体系を活性化させ、免疫機能を高めて癌細胞を攻撃する「抗癌ワクチン」や、体内の免疫細胞を変形して注入する「免疫細胞治療剤」も免疫抗癌剤に含まれる。

免疫抗癌剤は私たちの体の免疫システムを利用するため、既存の抗癌剤よりも毒性に対する耐性の問題が低く副作用も大きくない。最近、脳腫瘍の完治判定を受けたジミー・カーター元米国大統領が処方を受けた免疫抗癌剤は、免疫抗癌剤としては世界最大の売上げを記録した「キイトルーダ」だ。この製品は昨年、世界で71億7100万ドル(約8兆5000億ウォン)の売上げを上げた。しかし免疫抗癌剤も完璧ではない。最大の欠点は薬が効く「奏効率」が20~30%にとどまっているという点だ。治療効果を上げるには単独の処方ではなく、他の抗癌剤との併用投与をしなければならないという限界もある。

免疫抗癌剤とともに最近、急浮上している第4世代抗癌剤は「代謝抗癌剤」だ。代謝抗癌剤は癌細胞に栄養を供給する代謝作用に関与し、癌細胞へのエネルギー供給を遮断して癌細胞を飢えさせる。体内にある癌細胞が成長して生存するために必要なエネルギー源を遮断して、根源的な消滅を誘導するわけだ。

正常細胞は95%が細胞内ミトコンドリアで酸素を吸収してエネルギー源のアデノシン3リン酸(ATP)を生成することに対して、癌細胞は酸素があるにもかかわらずATPの60%を無酸素で生成する。このように無酸素でエネルギーを得る癌細胞の代謝作用は、発見者であるドイツの科学者オットー・ワールブルクの名にちなんで「ワールブルク効果(Warburg Effect)」と呼ばれる。癌細胞はワールブルク効果によって主に嫌気性代謝を行うが、これによって一般的な細胞に比べて乳酸が分解されずに多く分泌される。

癌細胞から溢れ出た乳酸が他の細胞に流れ込み、転移を起こすこともある。乳酸は癌細胞の表面の「MCT(monocarboxylate transporter/モノカルボン酸トランスポータ))」によって出入りを繰り返すことから、一部の代謝抗癌剤はMCTによる輸送を防ぎ、癌細胞内に蓄積された乳酸によるエネルギー代謝を妨害して癌細胞を破壊するようにする。

乳酸と類似した分子構造を持つ「3-ブロモピルビン酸(3BP)」という物質を確保したコスダック企業のニュージーラボ(NweG Lab)は、3BPをMCTの通路に入れた後に癌細胞内の酵素と結合させてて、癌細胞の代謝機能を破壊する代謝抗癌剤を開発している。 3BPを活用した方法を開発したコ・ヨンヒ博士は、「3BPが癌細胞に入って化学反応起こしながら、酵素が機能できないようにして代謝活動そのものを妨げる」とし、「癌細胞が行う無酸素と有酸素代謝作用を同時に遮断でき、MCTを持つ95%の癌に適用できる」と説明した。コ・ヨンヒ博士は「学界ではこれまで3BPは毒性の強い物質で人体には使えないと考えてきたが、毒性の発現を防いで代謝酵素に作用できるようにする機序を開発した」と主張した。

現在、世界で発売されている代謝抗癌剤は米国のアジオス社が2017年に発売した急性骨髄性白血病の治療薬であるエナシデニブ(商品名Idhifa)だけだ。最近ではニュージラボやハイムバイオ(HimeBio)のような国内企業も適応症を拡大した代謝抗癌剤を開発している。代謝抗癌剤の欠点は、癌細胞の代謝作用を抑制しようとしても、癌細胞が異なる方法で代謝を展開しながら転移を続ける場合は追いつくことが容易ではないことだ。このために癌細胞の複雑な代謝過程を明らかにできる、より多くの研究が先行しなければならないという指摘もある。

特にこのような欠点を克服するために、今後の第5世代抗癌剤は遺伝子解析手法を導入する必要があるという分析が出されている。癌細胞の変異を起こす遺伝子を見つけだし削除する方式だ。最近議論になっている遺伝子はさみ技術を適用して癌誘発遺伝子を矯正・治癒する方法を併用することにより、人類を癌から最終的に救うことができるというものだ。そのためには遺伝子情報を正確に判別した後、事前に危険因子を排除できるだけの技術の進歩が成されなくてはならない。グローバルな医薬品市場調査機関のエバリューエイトファーマ(EvaluatePharma)によると、世界の抗癌剤の市場規模は2015年の832億ドル(約90兆ウォン)から、2024年には2390億ドルに拡大する見通しだ。

■ 国内製薬・バイオ企業の開発状況

柳韓洋行や韓美薬品などが標的・免疫抗癌剤に集中...ニュージラボの代謝抗癌剤、来年上半期に臨床第1相

国内の大半の製薬・バイオ企業も抗癌剤開発のための臨床試験を進めているが、バイオシミラー(バイオ医薬品ジェネリック医薬品)をのぞけばまだ完成品を出せずにいる。開発中の分野は標的抗癌剤と免疫抗癌剤がメインを成している。

柳韓洋行(ユハンヤンヘン)が免疫抗癌剤を開発するために2016年に買収したイミュンオンシア(ImmunOncia)は去る3月、免疫関門抑制剤「IMC-001」の国内臨床第1相を終えた。 IMC-001は癌細胞の外側に生じる免疫細胞の活動を抑制する「PD-L1」を目標とした抗体新薬だ。今年の下半期には臨床第2相に突入する予定だ。

韓美薬品(ハンミヤップム)は標的抗癌剤の多くを外国の製薬会社に技術輸出して関心を集めている。韓美薬品は2015年に米国のスペクトラム・ファーマスーティカルズ社に肺癌と乳癌に使われる新薬候補物質「poziotinib(ポジオチニブ)」を技術輸出した。現在、米国で臨床第2相を進めている。 2016年にも多国籍製薬会社ロシュの子会社ジェネンテク(Genentech)社に各種固形癌に対する適応症を持つ「Belvarafenib(ベルバラフェニブ)」を技術輸出した。国内での臨床第1相を終え、米国で第2・3相を準備している。胃癌・乳癌の治療薬として開発中の「Oraxol(オラクソル)」も、米国の製薬会社アテネックス(Athenex)社に技術輸出されて第3相を進めている。この製品は既存の注射型抗癌剤を容易に飲むことができる経口用製剤に変えたことが特徴だ。

鍾根堂(チョングンダン)が開発している「CKD-516」は、大腸癌に栄養を供給する血管を破壊して細胞壊死を誘導する、新しい機序の抗癌治療剤物質だ。継続的に薬を投与する必要がある患者の不快感を解消するために、注射剤ではなく経口剤として開発している。鍾根堂の関係者は「グローバルな抗癌剤市場で、血管を破壊する機序を持つ経口抗癌剤はCKD-516が唯一だ」とし、「既存の抗癌剤よりも直接的な治療効果が高く、腫瘍細胞の耐性を克服することができる」と述べた。

JW新薬の子会社であるJWクレアゼンは、免疫抗癌剤の中でも樹状細胞を用いた免疫細胞治療剤を開発している。代表的なのは樹状細胞に抗原を効果的に伝達する薬物伝達技術(CTP)を活用した免疫細胞治療剤「クレアバックス(CreaVax)」だ。複数のパイプラインの中で開発速度が最も速いのは、肝臓癌治療剤の「クレアバックス-HCC」だ。肝臓切除術を受けた肝臓癌患者を対象に、国内第3相を行っている。臨床第2相を通じて、クレアバックス-HCCは肝臓癌の再発抑制効果が高いことが分かった。

保寧(ポリョン)製薬は関連会社のバイジェンセル(ViGenCell)で免疫抗癌剤を開発している。稀貴難治性疾患と血液癌を対象に免疫抗癌剤を開発している。癌抗原に反応するT細胞を選抜して培養した後、患者の体に投与して癌を治療する一種の免疫細胞治療剤だ。 2021年の臨床第2相を終えて、2023年の条件付き許可の後に出荷することを目指している。

ニュージラボは、1991年から17年のあいだ米ジョンズ・ホプキンス大学医学部で核心研究員として勤務した後、米国でKoDiscovery LLC(コ・ディスカバリー)を創業したコ・ヨンヒ博士を迎え入れて代謝抗癌剤を開発している。別名「3BP」を活用して癌細胞の代謝活動を弱体化させて治療効果を収める新しい機序を導入し、来年上半期の臨床第1相を計画している。

このほかに新羅ジェン(SillaJen)の「Pexa-Vec(ペクサベック)」は、適切な治療薬のない末期肝臓癌患者を対象とした免疫抗癌剤だ。近いうちに治療価値を証明するために、進行評価の発表を予定している。

セルトリオン(Celltrion)とサムスンバイオエピス(Samsung Bioepis)のようなバイオシミラー企業も抗癌剤の生産に乗り出している。セルトリオンが作る「トゥルクシマ(Truxima)」と「ハジュマ(Herzuma)」はそれぞれ血液癌と乳癌に特化したバイオジェネリック製品で、欧州での市場シェアを高めている。サムスンバイオエピスはこれまでに発売して来た「オントゥルサント」(乳癌)のほか、最近は転移性大腸癌や非小細胞肺癌などに使われる「アバスチン(Avastin)」のバイオシミラー「SB8」が欧州医薬品庁(EMA)の販売許可を控えている。
  • 毎日経済_キム・ビョンホ記者 | (C) mk.co.kr
  • 入力 2019-07-26 18:08:27




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