Q.「ご飯食べた?」は韓国では挨拶がわり？
| A. | 「ごはんを食べたのか」という言葉には、単純に「食事を済ませたのか」という言葉以上の何か、切ない情が込められており、親しい人同士で分かち合う親密感があります。以前は、大人が道を歩いているときに、近所で遊びまわる子どもたちを見ると、そのまま通りすぎずに「お前たち、ごはんは食べたのか？」と声をかけていました。もちろん、人と話すことが得意でない人は、子どもたちが面倒に感じるかもしれないと思い、声をかけずに通り過ぎたかもしれません。とにかく、近所の大人たちの「ごはん食べたのか」という言葉には、自分の子どもに対するような情感がありました。韓国には「お隣さんのいとこ」という言葉がありますが、人々はみんながひとつの家族のように過ごしていた時代の話です。 最近では、そのような風景はあまり見られません。隣に誰が住んでいるのかも知らないことでしょう。団地内で遊ぶ子どもたちに声をかけでもしたら、盗みをはたらく者、誘拐犯、さらには性倒錯者として怪しまれるのが常です。「ごはん食べたのか」という言葉は、近所のおじさんたちの口から完全に消えてしまったということです。本当に「こんにちは」というあいさつよりはるかに多情多感な「ごはん食べた？」という言葉が周囲からだんだん消えていってるようで残念です。 会社の職場でも似たような言葉が交わされます。「ごはん食べた？」という言葉のかわりに「お昼は食べましたか？」「お昼は何を召し上がられましたか？」「おいしいものでも召し上がったようですね」と、少しずつ変化します。どれも同じ食べることで表現される挨拶ですが、食事が与える妙な味わいがあります。 「ごはん食べた？」という言葉は、単純に儀礼的に聞こえたとしても、相手に対する配慮が含まれています。このような場面を一度想像してみてください。二人の友達が通りを歩いていて、偶然出くわします。お互いに連絡もとらずに過ごし、かなり久しぶりに出会いました。「やぁ、ほんと久しぶりだね。元気だった？そうだ、ちょうどお昼の時間だけど、ごはん食べてないよね？なにか食べに行こう」友達がおもむろに自分をつれていくせいで言葉も出ず、ともに食堂に向かいます。すでにお昼の時間を過ぎた頃で閑散とした食堂で遅いランチをとります。しかし、二人ともなぜか食事をする姿がぎこちないのです。実は二人ともすでにお昼を食べ終えた後だったのです。久しぶりに出会った友達と食事をしたいという思いから、すでにお腹がいっぱいの状態で食堂に連れて行った友達、そんな友達の気持ちを無駄にできず、食堂についていったもう1人の友達。あとになってその事情を知った二人はともに笑い合いました。 このような広い心が「ごはん食べた？」という挨拶に込められています。そうなんです。「ごはん食べた？」という言葉は、数千年前からつたわってきながら、とても厳しい世界に出会ってきました。空腹に飢えて泣く子どもたちに漆の根っこを差しだし、一年豊年、三年凶年で米びつが空になってしまった数か月を過ごしながら、この挨拶は深い意味を持つようになりました。 日本でごはんをどのように炊くのかは分かりませんが、韓国ではごはんが炊けた後でも弱火で蒸らします。そうしてこそ、ご飯のすみずみまで火が通り、味が豊かになります。食事についての挨拶は、きちんと蒸らしたごはんと同じぐらい、深い情が込められた言葉なのです。 Tip1：ごはんは漢字で「飯」といい、大人には「ご飯」、王室の大人では「スラ（王に差し上げる食事）」、祭祀（チェサ）では「メ（位牌の前に備えるご飯）」もしくは「ジェッメラ（祭祀の時に備えるご飯）」と呼びます。食べる表現もスラは「進御（しんぎょ）される」、「召し上がる」、飯は「食べる」などと表現されます。 Tip2：清の国の時代、張英は「飯有十二合説」で「朝鮮人は飯を炊くのが上手い。飯の粒につやがあってやわらかく、香り高く、また釜の中の飯がまんべんなく炊き上がり油のてりがある」と韓国の飯を炊く方法を賞賛しました。 Tip3：韓国のことわざのなかに「飯が補薬」という言葉があります。食事をきちんと摂ってこそ健康な一年を過ごせるという素朴な信念が込められた行動なのです。 Tip4：韓国人の主食「米」は、6,000～7,000年前、インド東北部地域で初めて栽培され始め、中国を経て韓半島に入って来ました。1977年に京畿道余州郡フンアム里で発掘された炭化米は、3,000年余り前のものと推定されています。この時から「ごはん食べた？」という挨拶があったのでしょうか。記録にはないだけに想像の羽根を広げるしかありませんね。 |
- Lim, Chul /写真_Photopark.com
- 入力 2014-05-02 12:00:00
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