A. | 朝鮮戦争が終わっても戦争の余波で物資が貴重でした。キムチを作る時に使う白菜や粉唐辛子も同じように尊かったのです。味がしっかりついた白菜キムチの代わりに、薄い汁に入ったムチャンジ(大根の塩漬け)で満足しなければなりませんでした。 その頃のエピソードを一つ紹介します。 戦争を避けて38度線の北側の開城(ケソン)から釜山(プサン)に避難して来た人が故郷では自分は、いい暮らしをしていたと言いふらしていました。 ですが町の人々は「避難して来たくせに見栄を張るんじゃない」と鼻で笑っていたそうです。 そしてある時、その人がキムチを漬けると言うので家に遊びに行ったところ、白菜に粉唐辛子をつけているのを見て「すごいぞ、本当に金持ちだったんだ」と感心したそうです。 中国北方地域に本拠地を置いた白菜はかなり昔から韓半島に入っていましたが、最近のキムチに使う白菜はとても貴重な野菜でした。少し放置しただけで萎れてしまうし、大きさも今の半分くらいで見た目が悪い野菜でした。 それじゃキムチは朝鮮時代末に出来たのかと言えば、そうではありまん。白菜以外の他の材料で作ったキムチの歴史はとても長いのです。 『三国志』の『魏志東夷伝』にも高句麗では醗酵食品を作って送ったという記録があって、現在のキムチに似たものを作って日本に送ったという記録も日本、奈良県の『正倉院文書』に残っています。キムチと似ていただけで、今のキムチからすれば、きっとキムチとは言えないでしょう。 「キムチ」と言えば自然と白菜を思い浮かべますが、草創期のキムチは白菜とは程遠かったということです。高麗時代のキムチを見ればムルキムチ(白菜の水キムチ)、ナバクキムチ(大根と白菜の水キムチ)、トンチミ(大根の水キムチ)など主材料が大根でした。 最近は白菜キムチに押されてキムチ国の周辺に追い出されましたが、一時はカクテキ(大根キムチ)がキムチの王座を占めていたと思います。(遊びや集会で正式メンバーではなく、おまけ扱いをされる人。 大根を切ってみると最後の端が四角ではなくて、中途半端な形であることが多いことから由来したそうですが、とにかくキムチの中でカクテキの境遇は似ています) 実際にカクテキは、王室の食べ物で王室では漢字読みで刻毒気(カクドッキ)と呼んでいたそうです。毒を除去するという意味もありますが、カクテキを食べれば体の中の毒素がなくなるかはよく分かりません。
カクテキの他にも大根が主材料であるキムチは非常に多いのです。写真でお見せします。
この他にもスンムキムチ(純大根キムチ)、ムルキムチ、エホバクヨルムキムチ(ズッキーニと大根の葉キムチ)など大根で作ったキムチは多いですが写真は省略します。 大根だけではありません。夏には塩漬けにしたキュウリにニラ、ニンニク、粉唐辛子などを混ぜ合わせた薬味を入れて作ったオイソバギ(キュウリキムチ)は白菜キムチを押しのけてキムチの王座に上がったりもします。 エゴマの葉、唐辛子の葉、ネギ、カボチャ、ゴボウ、キキョウ、サンチュ、春菊、葉ニンニク、さつまいもの茎、セリ、ナス、ショウブでキムチを作ったりもします。何でも塩漬けにした後、発効させれば、すぐにキムチに変身するということです。 山の中で生活をする人々は深い山の中で育つナムルであるメタカラコウでキムチを作ったりもします。山の中では白菜を手に入れるのが難しいし、栽培しにくいため環境に合わせて自然が与えてくれたナムルで代わりに作るのです。 中国では香菜(シャンサイ)、ヨーロッパではソースを作る材料として使われる一年生植物の香菜は、お寺のお坊さんがよく食べるキムチです。 白菜を手に入れにくいアメリカやヨーロッパに住む海外在住韓国人の中には、キャベツでキムチを漬けて食べる人が多いのです。白菜の値段が跳ね上がれば、軍隊ではキャベツでキムチを作って出したりもしますが、白菜キムチの味に慣れている軍人は食べながらも不満を言うそうです。 キムチの種類やキムチを作る材料はとても多いのです。新しい材料で挑戦してみるのもいいでしょう。しかし注意する点が一つあります。キムチの種類は材料やヤンニョム(調味料)によりおおよそ250種類を越えるというので、新しいものを探す方が難しいかもしれません。 |