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[筆洞情談] 村上春樹と非正規職


  • [筆洞情談] 村上春樹と非正規職
日本の作家である村上春樹はこれまで数十編の小説を書いてきたが、作品中の主人公のキャラクターは「自己複製」といっていいほど似ている。ほとんどが男、そして30代で、春樹式表現によると一般的な家庭を構成する平凡さが「缺落」した存在だ。ある日妻から「男ができた」という告白と離婚通報が迫っても、怒らずに黙々と受け入れる性格だ。子供がいない代わりに猫が好きで、料理やアイロンのような家事に趣味や才能があり、プレイボーイではないがいつも1~2人以上のパートナーがいる。そしてジャズやロックを好んで聞く。自分の仕事にはプロ意識があり、周りの人々もこれを認めている。そしてほとんどが「非正規職」だ。

最近韓国で翻訳出版されて人気を集めている新作 『騎士団長殺し』の主人公は、春樹的非正規職人間型の典型を示している。抽象化作家を夢見た主人公は、他人の肖像画を描くことで生計を立てている。芸術的成就とは距離が遠いが、彼は誠実で有能に引き受けた仕事をこなして仕事と通帳の残高は少しずつ膨らむ。家賃を出して車を転がし、しっかりとした夕食を準備するのに問題はない。1988年作『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公も似ている。主人公は雑誌社が指定したテーマ(例えばグルメ探訪)を取材したあと、締め切りに合わせて原稿を送るフリーランスライターだ。身の回りに問題が生じて仕事ができなくなったが、通帳には数か月くらいは気にせずに旅行するだけの資金がある。作家を夢見ながら数学塾の講師として働いている 『1Q84』の男主人公である天吾も生活が困窮ではない。

日本では正規雇用ではなく、アルバイトだけで生きていく「フリーター族」が登場してからしばらく経った。非正規職が主人公として出てくる村上春樹の小説は、一種の「フリーター文学」と言っても良いだろう。

最近、韓国では「アルバイト」を主人公にした広告やドラマが増えている。春樹文学がフリーター族の自由な生活を注目するならば、韓国ドラマでは非正規職の悲哀にアングルが合わせられる。日本は労働賃金が高い社会で、正規 - 非正規職間の賃金格差が大きくなく、アルバイトで基本的生活が可能だ。もしも非正規職の生活水準が村上春樹の小説の主人公程度あるのならば、自発的にフリーターの自由を追求する若者たちが韓国でも増えるだろうと感じる。
  • 毎日経済 ノ・ウォンミョン 論説委員 | (C) mk.co.kr
  • 入力 2017-07-22 08:34:55




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