【韓国コラム】3千万ウォンだけ貸してください


深夜、若い牧師が裕福な長老の家にやってきた。

1年以上副牧師として過ごし、信者の前で説教をすることになった若い牧師だった。

「こんな夜遅くに、どうしたんですか」

長老は若い牧師が明日の説教のせいで、いろいろと悩んでるだろうと思っていたが、話には出さなかった。ただでさえ心配事が多いはずなのに負担をかけたくないという配慮だった。

「あの、それが…」

牧師は簡単に口を開くことができなかった。

「何か必要なことがあったら言ってください。何でも聞きますから」

しばらく、ためらった牧師は決心したように訪ねてきた理由を明らかにした。

「できたら、3千万ウォンを貸してください。一日だけ使って返します」

こんな夜中に3千万ウォンを急に使えるところはどこか。疑問を抱いたが、長老は理由を聞かなかった。

「分かりました。ちょうど決済する所があって、お金を下ろしておいたのですが、牧師様に渡すためだったようです」

若い牧師は長老が渡した3千万ウォンを持って帰った。

礼拝堂いっぱいに集まった信徒たちの前で、若い牧師は怖気づいた様子を少しも見せなかった。低いが断固とした声、大きな声ではないがはっきりとした声で説教した「神の使者」は罪深い信徒たちの心に響いた。

礼拝が終わり信徒たちを迎える若い牧師の顔は明るく輝いていた。

信者たちがみんな去った後、牧師は長老に借りたお金を返した。

長老に借りてから24時間も経っていなかったため用処が気になった。

好奇心いっぱいの長老の顔を見た牧師は、3千万ウォンを借りた理由を明らかにした。

「説教をする時、内ポケットにお金を入れていました。生まれて初めて大金を握っていたので、心強い思いもしました」

筆者の創作ではない。

昔から出回っていた話だ。

牧師が主体になったり或いは教授、将軍、コメディアン、MCへと主人公が変わったりする。

大衆の前に立つのが怖い時に何か信じるものを作れという、そんな教え(?)だ。

この話で3千万ウォンは信頼できるもの、別の言葉ではお守りと言えるだろう。

韓国社会で物議を醸したが、大統領選に出馬したユン・ソクヨル(尹錫烈)前検察総長が左手の手の平に書いた王の字も同じ用途だったと思う。

口さえ開けば失言が続くので、自信を持つように周囲から勧められたのだろう。

大統領選に出馬する政治家を牧師に例えることは難しい。

大統領が5千万人の韓国人の人生と未来を担う人物だからだ。

特に、お守りの字がよりによって「王」という点も気に入らない。

国民を足元に置かなければ自信が持てないという意味にも解釈できるからだ。

もし、「王」ではなく「奴」や「隷」の字を書いたらどうだっただろうか。

同じお守りでも、国民を主人として仕えるという気持ちを表わしているので、状況は正反対になっていたかもしれない。
  • Lim, Chul
  • 入力 2021-10-09 00:00:00