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コンテナ農場「スマートファーム」開発…キム・ヘヨン代表

韓エヌシング社キム・ヘヨン代表 

  • コンテナ農場「スマートファーム」開発…キム・ヘヨン代表
  • n.thing(エヌシング)のキム・ヘヨン代表がソウル市江南区宣陵の本社で「スマートファーム」を紹介している。 ハン・ヂュヒョン記者



無線インターネットが家ごとに普及し始めていた2001年、はじめて接した情報技術(IT)の世界にどっぷり浸かった17歳の少年がいた。プログラミングの勉強に熱中していた少年は、数ヶ月後には在学中の学校の公式ホームページを運営し始めた。さらに学校周辺で商売をしていた小商工人たちにホームページを作ってやり、その対価としていくらかの小遣いを稼ぐこともした。旺盛な好奇心と強い実践力の所有者がまさにn.thing(エヌシング)のキム・ヘヨン代表(35)だ。

キム代表は2007年に軍を除隊後、芸能事務所のホームページを作成する仕事に飛び込んだ。この過程で偶然に芸能人のマネージャーも始めた。しかし3ヶ月めに企画会社がとつぜん倒産し、穏やかだった生活の中に問題が生じた。担当する芸能人の食事などの支払いを個人カードで行っていたが、事後に精算されるシステムだったことから、賃金をもらえないので数百万ウォンの借金を抱えることになったのだ。

金を調達できるなら何でもする必要があった。まず各種のオンライン就職サイトに履歴書を送り、連絡が来るのを待っていた。そんな中でSKテレコムからITトレンドを分析してみないかという提案を受けた。当時、グローバルモバイル業界はアップルの「iPhone」の登場で、前例のない変化を迎えた状況だった。未来学者たちと3Dプリンタやモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、バーチャルリアリティ(VR)などを勉強した二ヶ月の時間はキム代表の人生に大きな転機となった。

人間の最も基本的欲求である「食欲」にIoT技術を組み合わせた「エヌシング(n.thing)」はこのようにして誕生した。食べ物の主要材料である野菜は統制不可能な自然環境に大きく左右されることに問題意識を感じたキム代表は、栽培条件を完全に制御できるモジュール型コンテナを開発し始めた。その年の降水量と日照時間などに関係なしに均質な作物を育てるエヌシングは、国内だけでなく中央アジアなどでも多くの注目を集めている。

去る18日、ソウル市江南区に所在するエヌシングの本社で「無条件にうまくいくしかない」という自信で一日一日を忙しく生きるキム代表に会った。

- 農業にITを活用するようになったきっかけは?

△ ITトレンド分析プロジェクトを進めながら、英語に対する勉強の必要性を感じた。 IT関連の書籍がすべて英語になっていたからだ。それでまっすぐ英国に行って購入代行センターで働きながら英語を習ったし、デザイン学校の短期コースも修了した。 1年後の2010年に韓国に戻ってきたら、ちょうどビニールハウス製作業を営んでいたた叔父から一緒に仕事をしてみないかと誘われた。当時、叔父はウズベキスタンのトマト農場にビニールハウスを設置することになった状態だった。英語でコミュニケーションできて、コンピュータも扱える者が必要だったわけだ。叔父の会社に合流し、作業中に韓国の農業技術力が海外で認められていることを知った。農業が伸びていくことができる領域は無限であることもわかった。

- 「スマートファーム」のアイデアはどのように?

△ 2012年、自分の会社を持たなければと考えはじめた頃に、あるブログで電子部品研究院(KETI)の関係者が書いたIoT関連の記事を見ることになった。彼にすぐにメールを送って、IoTに興味があるという点を披瀝した。おかげで1年間、KETIの委嘱研究員としてオープンIoTプラットフォームの開発事業に参加することになった。この時のアイテムとして考案したのが「スマートファーム」だった。叔父の会社で働いた経験があったので、ある程度の自信がついた状態だった。当時、開発した製品は鉢の形の家庭用作物の栽培だ。スマートフォンアプリを通じて、リモートで鉢に水を与えることができる製品だった。農業を知らない人も一度は家で草花を育てた経験があるということからアイデアを得た。

- 植木鉢の形態の家庭用作物栽培器が今のエヌシングを作った礎石だと聞いたが。

△ 2013年6月に未来創造科学部とGoogle、インターネット振興院などがグローバルKスタートアップ支援プログラムを主催した。このイベントに参加するために、学校(漢陽大学 ERICAキャンパス)で我こそはと言う実力を持った友人を集めてスマート植木鉢のアイデアを具体化した。「プレンティ」という名前を付けたのもこの時だ。 10対1の競争率をかいくぐって、本選50チームの中に入った。その後、プレンティのプロトタイプ(本格的な商品化に先立って、パフォーマンステストのために重要な機能だけを盛り込んだ基本的なモデル)を製作して最優秀賞とGoogle特別賞を受賞した。この時に受け取った賞金2000万ウォンで、2014年1月にエヌシングを設立した。

- エヌシング誕生時の記憶に残るエピソードは?

△ プレンティは植木鉢コンセプトの製品だから、機能だけでなく形も素晴らしいものにしなければならないと考えた。良いデザイナーと一緒に仕事をしたいという気持ちで、一面識もなかった工業デザイン学科の学生会長に電話をかけ、「世界3大デザイン賞のレッドドットデザイン賞で賞を獲得するだけの実力のある人物を紹介してほしい」と頼んだ。仕事がうまくいきそうだったし、実際にその年に開催されたレッドドット賞で最高賞を受けた学生がいた。さらに驚くべき事実は、その学生も植木鉢を作って大会に出場したという点だ。作物ごとに与える水の量が異なることに着眼し、周囲の温度や湿度だけでなく、水の量を個別にチェックする植木鉢センサーを考案したわけだ。学生に会った場で「授賞式に出席するためにドイツに行かなければならない」という言葉を聞いて、すぐにドイツ行きのチケットを買ってやって一緒に仕事しようと提案した。

- エヌシングを運営してき難しさはなかったか。

△ 2015年4月にプレンティが米国市場に導入され、一ヶ月間で10万ドル以上販売された。それまでは会社の雰囲気は悪くなかった。しかし将来に対する悩みは大きくなっていった。私たちが行こうとする方向は農業市場だが、ある瞬間だけを見ると単に植木鉢を作る会社になってしまったからだ。設立3年目に量子ジャンプが必要になり、農場監視用IoTセンサーの開発に着手したが容易ではなかった。特に資本が不足した。 1年半ほどは会社で食べたり寝たりしたほど、経済的に大変だった。そんな中でも従業員の給料はきちんと用意しなければならないという考えでキャッシュ金サービスまで使った。

- どのように危機を克服したか。

△ 2017年の夏にコンテナ型スマートファーム(プレンティキューブ)のプロトタイプを開発することに成功して、状況がよくなり始めた。エンジェル投資を受けたことで、2018年にはソウル市城北区の彌阿洞(ミアドン)に3棟建てのプレンティキューブを構築した。 1年間の栽培試験を経て性能を認められ、そのおかげでベンチャーキャピタルから約25億ウォン規模のシリーズA(アイデアを正式サービスにしていく過程で、資金を支援を受ける段階)投資も誘致した。これを踏み台にして、今年は京畿道龍仁に16棟建てのプレンティキューブを構築した。年産規模は約30トンだ。気の合うスタッフと途中であきらめず、絶えず研究開発に乗り出したことが実を成したと思う。

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  • 京畿道龍仁のエヌシング・プレンティキューブ(モジュールコンテナ農場)で、従業員が設備を点検する様子。 ハン・ヂュヒョン記者



- エンシングが一般的なスマートファームと異なる点は?

△ いま現在、韓国ではスマートファームというと温度センサーが設置されたビニールハウスやガラス温室程度を意味する。エヌシングのプレンティキューブは、入力されたデータの値に応じてすべてのことをソフトウェアが制御するプラットフォームだ。自動車で例えるなら、人が全く関与していない自律走行車というわけだ。同じ作物でもデータの値を変えて多様に栽培できることもプレンティキューブの強みだ。例えば大量のレタスを注文した顧客が「一部は一般的なレタスよりも少し甘くして欲しい」と要求したとき、それに合わせてコンテナ環境を設定するとそれを収穫することができる。

農場の運営方式も異なる。通常は作物を育てた次に市場に送り出すが、私たちは逆に、最初に売ってから植える。先注文の後栽培という構造だ。こうすると損失が全くない。出荷時の価格が暴落する可能性を心配する必要がないのが利点の一つだ。

- 現在育てている作物と、今後の栽培計画は?

△ 現在、栽培を目前にした作物はサラダ用の野菜をはじめ、50種類を超える。糖尿病や腎臓疾患のための機能性野菜も開発中だ。機能性野菜とは、遺伝子操作ではなく周囲の環境を制御して、特定の成分を増やしたり減らした作物を指す。特に野菜に含まれている塩分である窒素とカリウムを下げることに注力している。これまで窒素とカリウムのために野菜をゆでて食べる必要があった低塩食患者に、カリカリした食感を取り戻してやることが目標だ。また、一部の化粧品や医薬品に使用される特用作物も栽培する計画だ。すでにいくつか要求を受けた件がある。

- 海外市場へはどのように進出することになったのか。

△ プレンティキューブのプロトタイプを作成した当時、アラブ首長国連邦の企業から先に連絡がきた。石油への依存度を下げる代わりに、農業での有望事業を見つけるのに苦労していた。その縁があって、今年の7月にアブダビで栽培試験を実施した。結果は成功的で、今月26日にコンテナ8棟をアブダビに送り出した。サウジアラビアやドバイなどの中東諸国をはじめ、ロシア、シンガポール、タイにもプレンティキューブを輸出する計画だ。

- エヌシングのビジョンは?

△ 2つに要約することができる。一つはすべての人が農家になれるよう助にけることであり、もう一つは世界中の人々がいつでもどこでも新鮮な野菜を味わうことができるようにするというものだ。またモジュール型であるために、コンテナだけをくっつければ事業を拡大することができる。何よりもプレンティキューブの最大の利点は「アクセシビリティ」にある。食品加工工場の隣にコンテナ農場を設置できる。収穫した作物が、農場から1時間足らずで工場や店に行くわけだ。食品のB2B領域にコールドチェーンを完成し、極新鮮材料を継続して供給する計画だ。

▲ He is ...

1985年生まれ、2004年に漢陽大学エリカキャンパス電子通信工学に入学。 2010年にビニールハウス製作会社に入ってウズベキスタン輸出業務を担当した。2012年には電子部品研究院のオープンIoTプラットフォーム開発事業に参加。 2013年「スマート花瓶」を作って、グローバルKスタートアップ支援プログラムで最優秀賞とGoogle特別賞を受賞。この時に受け取った賞金で2014年1月エヌシングを設立。現在、京畿道龍仁で「プレンティキューブ」というモジュールコンテナ農場を運営しながら、中東などに輸出している。
  • 毎日経済_シム・ヒジン記者] | (C) mk.co.kr
  • 入力 2019-12-27 17:21:15




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