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[科学の香り] 巨大ネズミが生態系を襲撃した理由

韓国科学技術情報研究院(KISTI) 

  • [科学の香り]  巨大ネズミが生態系を襲撃した理由
「人間は大きな人(偉い人)の恵みを受けるが、木は大きな木の恵みを受けない」という言葉がある。人の場合には、偉い人の懐に入れば、その人の関心と保護下に成長する機会をつかむことができるが、木は違う。光合成をして生きていく木の場合には、大きな木の下にいれば、光を適切に受けられず、光合成をうまく行うことができずに成長が遅くなり、くもの巣のように伸びている大きな木の根に遮られて、水やミネラルの吸収も妨げられ、きちんと生存することすら大変なためだ。

そのため、大きな木の陰に閉じ込められた小さな木は、栄養素の不足や日光に対する渇望により、ひどく幹が曲がったり、小枝を四方八方に伸ばして、みすぼらしい格好になりがちだ。しかし、小さな木だからと、最後まで小さいわけではない。木こりがやってきて、大きな木を切り倒し、日陰を取り除けば、小さな木は息をすることができるようになり、再び天に向かってすくすく育つ姿を見せるからだ。

生態系のあらゆる生物は、限られた資源をめぐって競争しながら生きている。資源を確保するのこのできた、つまり、餌を十分に確保した個体は、円滑な栄養補給により体格が大きくなり、大きくなった体は、それ自体で他の競争相手を退ける有利な要素になる。これは、肉食動物だけでなく、草食動物にも適用される。ゾウは草食動物だが、完全に成長するとライオンでさえも、むやみに飛びかかることのできない無敵の存在となる。5トンに達するゾウの大きな図体とその肉体が持っている物理的な力が優れた武器になるからだ。

したがって、十分な餌だけ確保できれば、個体の進化は体が大きくなる方向に発展することになる。この戦略を忠実に実行したのが恐竜だ。2億2千5百万年前、三畳紀に初めて地球上に登場した恐竜は、思ったより大きくなかった。おそらく、現代人がこの時代の恐竜に初めて会ったら、長い尾を持つ毛のない鶏に似ていると思ったことだろう。恐竜が登場する前にも、すでに爬虫類は存在していたが、恐竜はトカゲやワニなどの爬虫類に比べて確実な生存の利点があった。それは足の構造だ。

通常、爬虫類の足は胴体から水平に生える構造で、胴体を支えることができないため、相対的に移動速度が遅い。しかし、恐竜の場合、足が胴体と垂直に生えており、胴体を支えることができるため、移動が容易なだけでなく、二つの後ろ足で立ち上がって速く走ることまでも可能だった。このような移動の利点は、似たり寄ったりの動物たちだけが存在していた古生代の生態系では、非常に有利な戦績で、この利点をもとに恐竜は速く成長する戦略を選択することになる。

また、豊富な餌と酸素量、鳥類の特徴を持った恐竜の肺は、大気中の酸素を吸い込むことにおいて、はるかに有利(*)だった。このような様々な生態学的利点は恐竜を、それから2億年以上にわたって生態系の支配者として君臨させる原因となり、恐竜はこれをもとに非常に大きな体を持つ方向に進化したのだ。肉食恐竜だったティラノサウルスは体長13メートルに加え、体重は6トンという巨大なハンターで、名前さえも物物しいスーパーサウルスは体長だけで42メートル、体重は55トンを持つ、まさに山のような生物体として育った。

しかし、すべての個体がこの戦略を利用することはできない。すでに図体が大きな競争相手が優位を先取りしていたり、あるいは体の大きさ競争で押し出された場合、その隙間に挟まった個体は、むしろ体格が小さくなる方向に進化している。まず、大きな体格は大量の餌を必要とするため、餌を十分に得られない個体のサイズが小さくなることは当然のことであり、体格が小さくなると体を隠すことも容易になるため、体格が大きな個体の恐ろしい目を避けることも簡単になるからだ。その代表的な例が初期の哺乳類だ。

哺乳類の特徴を一部持った原始哺乳類の爬虫類型の哺乳類であるキノグナトゥス(Cynognatchus)は、恐竜と同じ時期の2億2千5百万年前に地球上に登場したが、体の大きさがキツネ程だった。しかし、生存競争で優位権を握った恐竜が生態系の帝王として君臨することになり、ますます大きくなる恐竜の間で体の大きな個体はみな恐竜の餌になり、1億8千万年ごろに地球上に残っていた爬虫類型哺乳類は、ネズミ程度の大きさの個体だけが残ることになる。そして生き残ったこれらの個体はもはや爬虫類型哺乳類ではなく、完璧な哺乳類の特徴(恒温、毛皮、授乳、子の保護など)持つものに変貌していた。

哺乳類は爬虫類に比べて温度変化に敏感ではなく子の生存率も高いため、個体数は難なく増加したが、彼らもやはり体の大きさでものを言わせる恐竜の隙間で生きなければならなかったため、大きな体を持ってはいなかった。ネズミほどのサイズの哺乳類が体格を大きくするチャンスをつかんだのは、6千5百万年ごろ、恐竜が絶滅してからだった。大きな木が切り倒されれば、その下でうずくまっていた小さな木が我先にと育だつように、恐竜が絶滅して無主空山となった生態系で最初に勝旗を握ったのは、ほかでもなく、哺乳類だったのだ。彼らの体の中で数億年ものあいだ眠っていた「サイズに対する熱望」は、マンモス(体重9トン)とマストドン(体重6トン)につながった。

ネズミの祖先の一つであるフォベロミス・パッテルソニ (Phoberomys pattersoni)もマンモスには及ばないものの、体長2.5メートルに体重は700キロに達する巨大な図体に成長した。恐竜の代わりに繁栄し始めた哺乳類は、すぐにその間で新たなサイズの競争を続けた。ゾウやサイ、キリンなどの個体は、ますますサイズが大きくなり、生存の有利な地点を先取りする形に変貌し、この隙間に挟まれたネズミをはじめとする齧歯類(ネズミ目)は、狭いスペースで天敵の目によく見えない形へと小さくなる戦略を駆使し、種間の個体差はますます広がり始めた。「ネズミのしっぽほどの給料」、「ネズミの角ほどもない(何もない)」、「ネズミの穴で貧乏暮らし」などのねずみに関連する韓国の慣用句がほとんど非常に少ない量を比喩する言葉として使われるのを見ると、小型化の戦略を選択したネズミの生存戦略はある程度は的中したわけだ。

しかし、現在のネズミが小さいからと、将来のネズミもやはり小さいだろうという保障はない。ネズミが小さくなったのは、環境とかみ合った適応の結果であって、ネズミは無条件に小さくなければならないという宿命などはないからだ。もしかしたら、大型哺乳類の相当数が絶滅の危機にひんしている現実は、むしろネズミにとっては、昔の栄光を取り戻す機会への踏み台になるかもしれない。

これに英レスター大学のヤン・ザラシェヴィチ(Jan Zalasiewicz)教授は、孤立した生態系では、特にネズミが生態系の新しい所有者の位置を占めて、これによる補償給付により大型化すると主張している。ネズミは、ほぼすべてのものを食べる雑食性の中でも最高の食性を誇る無偏食主義者であるため、餌の範囲が広く、繁殖力が強いという特徴を持つ。ネズミの一種であるハツカネズミの場合、生後30日になると性的に成熟し、妊娠3週目には6~12匹の子を一度に産むことができ、出産後21日が経つと授乳期間が終わって再び妊娠が可能になるほど、おびただしい繁殖力を持つ。

ネズミのこのおびただしい繁殖力は、ネズミを捕食して生きる天敵にとっては豊富な餌になるとともに、天敵がいない場合はネズミが生態系の優位性を一気に独占できるという可能性を提示する。そうなると、過去に恐竜が消えた座を占めた哺乳類が、独自の競争を繰り広げて大型化したように、天敵が消えた生態系でネズミ同士の競争を通じて巨人症を持つネズミが出現する可能性も非常に高い。そして、これは現在進行形だ。

ヤン・ザラシェヴィチ教授は、孤立した生態系、すなわち、周辺から離れて長い間、独自に生態系を成し遂げた小さな島に人々が移住する際に一緒についてきたネズミは、既存の生態系のバランスを壊して新しい支配者となった事例、すなわち「ネズミの島」に対する事例を多数提示した。

また最近、英国とスウェーデンなどでは体長40センチを超える巨大ネズミが頻繁に出没して、人々を驚かせている。本当に地球の生態系の未来は、マイティ・マウス(Mighty Mouse)が支配するネズミの天国になるのだろうか。正解は、遠い未来になってこそわかるだろうが、今のように大型哺乳類の絶滅が加速するなら、それに比例して、この可能性はさらに大きくなることだけは確かだ。

(*)酸素量の増加は、個体の量的成長を引き出す。実際にアリゾナ州立大学のロバート・タドリー(Robert Dudley)教授は、酸素濃度を23%(現在の大気中の酸素濃度は21%)まで高めてショウジョウバエを育てた結果、世代を重ねるごとにサイズが大きくなるとを発表した。
  • 毎日経済_文:イ・ウニ科学コラムニスト、コラム提供:韓国科学技術情報研究院(KISTI) | (C) mk.co.kr
  • 入力 2015-03-18 09:29:28




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