トップ > テクノロジー > 健康・医学 > [科学の香り] サマータイム、生体リズムかエネルギー節約か

[科学の香り] サマータイム、生体リズムかエネルギー節約か

韓国科学技術情報研究院(KISTI) 

  • [科学の香り] サマータイム、生体リズムかエネルギー節約か
3月28日の夜にフランスのパリに出張したAさんは翌日の朝、ホテルの朝食を食べるために食堂に向かった。しかし、レストランはすでにがらんと空いており、入口には10時までだけ食事を提供する案内札が貼ってあった。この夜、現地時刻に合わせておいたAさんの時計は明確に9時30分を指しているのに、なぜ、すでにドアが閉まっているのだろうか。

このような出来事は、まさにサマータイムにより起きたエピソードだ。今年のフランスのパリでは、3月29日午前2時から時計の針を3時に合わせた。したがって、その日、Aさんの時計のみ午前9時30分だったわけで、パリの他の時計はすべて10時30分だったのだ。

「日光節約時間」とも呼ばれるサマータイムは、夏に標準時間より時計の針を1時間繰上げる制度だ。ヨーロッパでは、毎年3月の最終月曜日から10月の最終日曜日まで、米国では3月の第2日曜日から11月の第1日曜日まで施行する。南半球に位置するオーストラリアの場合は反対に、10月の最終月曜日から始めて4月の最初の日曜日になるとサマータイムが終わる。

サマータイムを最初に着目した人は、米国の科学者であり、政治家、ジャーナリストだったベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)だ。彼はパリ駐在米国大使として働いていた1784年に雑誌編集長に書簡を送り、夏季に早起きすれば時間を効率的に活用することができるだけでなく、夜に消費するランプの油も節約できると、パリジャンらが早く起こることを提案した。

少しより具体的にサマータイムを議論した人は、ニュージーランドの昆虫学者のジョージ・バーノン・ハドソン(George Vernon Hudson)だ。昼に郵便局で働いて夜には昆虫を採集していた彼は1895年に「夏の時間を2時間繰り上げるよう」と提案した。仕事を早く終えて昆虫採集をしたかったからだ。

1907年には、英国の建築業者ウィリアム・ウィレットがサマータイムの導入論を盛り込んだ「日光の浪費」という著書を出した。仕事の後にゴルフを楽しみたいと思った彼は、燃料の節約および健康増進を掲げてサマータイムの導入を積極的に主張した。日光の節約法案を作成し、議会に提出して国王と首相まで訪れたが、最終的に否決されてしまった。

ところが、サマータイムが最初に導入されたのは、1916年のドイツからだ。第1次世界大戦を行っていたドイツは、当時の同盟国であるオーストリアと一緒に石炭の使用を減らし、空襲に備えるという目的のもとにその年の4月30日に基準時間を1時間繰り上げた。

後に続いてオランダ、デンマーク、英国などの複数のヨーロッパ諸国がサマータイムを実施して戦争後には米国、カナダ、ニュージーランドなどが採用した。以降、サマータイムはしばらくの間注目されていなかったが、1970年代のオイルショックが起きてから急速に拡散した。サマータイムの最初の施行拡散が戦争や原油高と関連されているというのは、それほど経済的効果が大きいということを意味する。

米国運輸省はサマータイムの実施により、家庭用の電気使用量を1%節約することができるという研究結果を出しており、2007年には、米エネルギー省でもサマータイムを実施する場合、電力消費量が約0.5%減少すると明らかにした。また、英ケンブリッジ大学が昨年に出した報告書によると、サマータイムの実施により1年、約7,960億ウォンの省エネ効果を収めると現れたりもした。

ジョージ・バーノン・ハドソンとウィリアム・ウィレットが昆虫採集やゴルフを楽しむためにサマータイムの導入を最初に主張したことからも分かるように、サマータイムを実施するとレジャー生活を活性化する効果も明確にある。韓国は1948~1960年とソウルオリンピックが開かれた1987~1988年にサマータイムを実施したことがある。ところが、1988年のソウルオリンピック当時、サマータイムの実施によって酒屋の売上高は30%以上急減した一方、ボーリング場、劇場、ヘルスクラブなどの趣味・レジャー産業の売上高は10~20%増加した。

しかし、変化した時刻パターンにより生活リズムが崩れるという市民の不満が多く、1989年に廃止された後、韓国はこれまでサマータイムを実施していない。実際にサマータイムは私たちの時間を未来に1時間繰り上げたが、施行後に生体リズムが崩れる期間は約1~3週間も持続する。

このように生体リズムが崩れ、睡眠をまともに取れない場合、多様な異常症状が発生しえる。米オレゴン大学のデイビット・ワグナー教授チームが2014年に発表した研究結果によると、サマータイムの実施によって睡眠をきちんと取らない場合は配偶者やパートナーと争う確率が高くなり、利己的に行動する傾向が強くなることが分かった。また、相手の感情に共感する能力が落ちるという事実も確認された。

サマータイムが心臓麻痺の可能性を触発させる原因となることがあるという研究結果も少なくない。2008年『ニューイングランドの医療ジャーナル』に発表された研究によると、サマータイムを実施した後、心臓麻痺の件数が増加したことが示されており、特にサマータイムの初日が日曜日の場合、心臓麻痺の発生率が5~10%ほど高まる可能性があるという研究結果も発表された。

ところが、最近ではサマータイムの最大の利点であるエネルギーの節約効果について反論する研究結果も出ており、目を引く。米ワシントン大学のヘンドリック・ウルフ教授が1995年から2005年までの7年間、サマータイムを実施するところと実施していないオーストラリアの2つの地域間の電力消費量を比較した結果、電力消費量には大きな差がないという結論が出たのだ。その理由は、サマータイムの施行地域にて夜の電力消費量は減少するが、朝には増加するため、全体的な消費電力は大きな差がなかったのだ。

また、イェール大学のマシュー・コチェン(Matthew Kotchen)教授が2006年に初めて州全域でサマータイムを施行したインディエジュ州で施行前と後の電力消費量を比較した結果、サマータイムがかえって電力需要を高めるという結論が導き出されたりもした。その理由についてコチェン教授は、時代が変わって家庭で照明をつけることは電力消費量の極一部分だけを占め、冷暖房の電力消費量が多くなったからだと分析した。

このような研究結果のためかも知れないが、サマータイム制の効果をめぐる賛否論議が広がり、米国では現在、サマータイムの廃止を議論する州が11か所に達する。一方、今年2月に米国ニューメキシコ州上院はサマータイムを1年間ずっと維持する内容の法案を通過させたりもした。

今では、サマータイムの効果として、エネルギーの節約だけを主張するには無理があるように見える。「私たちはいつでもサマータイムを施行してきたから…」という受動的な姿勢ではなく、冷静な分析が必要な時点だ。
  • 毎日経済_イ・ソンギュ科学コラムニスト、コラム提供:韓国科学技術情報研究院(KISTI) | (C) mk.co.kr
  • 入力 2015-04-09 10:09:27




      • facebook icon
      • twetter icon
      • RSSFeed icon
      • もっと! コリア