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[モノの哲学] 梳き櫛-じっくりと染み渡る

梳き櫛とソウル市の都市再生事業プロジェクト 

  • [モノの哲学] 梳き櫛-じっくりと染み渡る
全国を渡り歩いて小間物を売り歩いていた「小間物売り」が、どこかに一晩を居候しなければならない時に、最初に取り出しておくものが「梳き櫛(すきぐし)」というモノだった。詩人兼映画監督である柳河(ユ・ハ)の『梳き櫛一つの詩』では、恥も知らない「小間物売り」と言ったが、昔々には「梳き櫛の一つだけ」を出しておけば、十分だと思っただろう。世界が西欧化する以前には、美容において必須のツールが「梳き櫛」だったからだ。ツバキ油を使っていた昔の女性の髪飾りでは、櫛目が細く細かい梳き櫛を使用すると、油が髪の毛のあちこちによく染み込むので、この目的のためにも欠かせないモノだった。

壬辰倭乱の時、中国の使臣が朝鮮王朝の行政官として最高位にあった重臣、柳成龍(ユ・ソンリョン)に朝鮮の民が「日本人は解き櫛、中国人は梳き櫛」と言うと、その意味を問う対話録がある。日本軍の収奪が激しくなったが、朝鮮を助けると入ってきた明国軍の収奪が梳き櫛のようにもっとひどかったという情況を暗示する話だ。昔は性格が非常に几帳面で抜け目がなかったり、粘り強い根性を持った人を指して「平安道(ピョンアンド)の梳き櫛商人」と呼んだりもした。

西洋式の女性櫛の代表であるヘアブラシは梳き櫛と異なるだけでなく、隙間が粗い解き櫛とも形や動作原理が異なる。わが国の伝統的な櫛は、外側から内側に押して髪を下におろせば、髪の毛が落ち着いて端正に整えられるいうことだ。ヘアブラシはパーマをする現代人のヘアスタイルの特性を反映している。長く間隔がまばらになる櫛目の間には十分なスペースがあるため、髪の毛の間の間隔を開けて膨れ上がり、髪の毛を外にかきあげて「豊かなボリューム感」のあるスタイルを作る。

ソウル駅の高架道路の公園化事業を皮切りに、ソウル市が都市再生事業プロジェクトを相次いで発表している。様々な議論があるというニュースに接しながら「人中心」を掲げるソウル市が、もしかしたら梳き櫛方式を逃しているのではないだろうかという老婆心が湧く。表面的で、視覚的に膨らまされたヘアブラシ方式は、重層の時間性を持つ首都ソウルにはまったく似合わないからだ。
  • 毎日経済_ハム・ドンギュン文学評論家 | (C) mk.co.kr
  • 入力 2015-05-08 16:06:31




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