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「金正恩暗殺未遂事件あった」…脱北人物匿名インタビュー


1990年代、北韓の核開発疑惑を暴くために北韓に潜入した対北工作員の実話を扱った映画『工作』。映画の序盤部で主人公が北韓浸透のための事前作業としてビジネスマンを偽装し、中国と北韓の高位幹部と会うシーンが出てくる。自分の身分を偽る宿命を持ったスパイが、冗談を言いながら北韓の高位級幹部と親交を結ぼうとするが、そのたびに北韓のもうひとりの人物が疑わしい視線を送り続ける。海外での防諜任務を帯びて派遣された北韓の国家保衛部(現在は国家保衛省)所属の人物だ。

国家保衛はわれわれの情報機関である国家情報院に該当する機関で、この北韓の人物はわれわれの対北工作員の対蹠点にいる人物というわけだ。

映画全体を通して二人の神経戦は緊張感を加える。現政府に入って南北の和解ムードが造成されているが、南北の状況はこの映画の現実から大きく逸脱していないと見てもよいだろう。表面上は南北関係の改善と北韓の核廃棄に対する友好的な雰囲気が続いているが、実際にそうなのかは正直われわれは知ることができないのが現実だ。これは北韓の核はわれわれの手でのみでは解決できない問題であり、関連情報は機密に属してほんとうに真実かどうかを正確に知ることは難しいからだ。 4月の板門店会談に続き、6月には歴史的な北・米首脳会議まで開催されたが、その後の動きをどのように評価するかは正直まだ難しい問題だ。政府当局者の話をそのまま信じることも疑うこともあって曖昧だ。

これ毎日経済ルクスメンは、われわれの視角ではなく北韓の情報当局の視線で、いまの南北関係を見る機会を得た。映画の中のわれわれの工作員を疑う国保衛出身の高位級の脱北人物に直接会って、現在の北韓の雰囲気をうかがってみた。インタビューは匿名で行われた。名前を公開しないのは身辺保護のためだ。この人物は韓国に定着しても情報当局と仕事をするなど、南北関係のために日陰で仕事をしたし、また現在も北韓の保衛省とのつながりを通じてある程度、北韓のニュースをリアルタイムで把握している。インタビューでこの人物はそれほど知られていない、あるいは敏感な内容をよどみなく伝達した。半信半疑になる内容もあったが、この人物が伝えた北韓内部の雰囲気の骨子は「自国がついに世界に核保有国と認められたという勝利感に陶酔している」ということだ。今回の北韓の核放棄の動きがこれまでとは異なる真正性ある動きだと信じるわれわれ政府の信頼とは明らかに異なる。

▲ 「北・米会談後、北は核保有国になったと宣伝を強化」

この人物は「党から送られた人民を対象とする講演資料に記載の内容」だとし、作り話ではないことを明らかにした。

この人物はわれわれの政府の未熟な楽観論を警戒し、「最近の北韓をめぐる国際情勢と南北関係の流れの中で最も恩恵を得た人物は金正恩」だとし、「北韓が核を放棄することはないだろうし、現在の北の人民は自分たちが核保有国になったと考えている。これは金正恩の功績として作られた」と強調した。

この人物は「トランプ米大統領とのシンガポール会談の後、北韓内部では私たちの偉大な将軍様が核大国に完成させた」という趣旨の講演資料は各道・市・郡にばらまかれ、これにしたがって各市・道の党秘書が人民を対象に講演を行った」とした。そして「このような雰囲気の中で、金正恩の偶像化作業も確実にめどがついた」とし、「金正恩の最大の悩みの種だったシステムの安定性は、いまやもう心配事ではない」とした。

この人物は「事実、金正恩が来る新年の辞を通じてとつぜん和解ムードを造成し始めたのは、体制の脅威レベルがかなり深刻だった面があった」とし、「北韓のミサイル挑発で国際的な圧迫が続いたときに、内部では政変が起こる可能性があるという話を国家保衛省で直接聞いた」と言う。

この人物は、「このような危機的状況を金正恩は平和ムードの造成で突破して、内部的には核保有国になったという宣伝を強化しつつ体制に対する脅威を沈静化させることに成功した」とした。

それとともに、この人物は「金正恩国防委員長の暗殺未遂が3年前に発生した」と言う。それによると、金委員長が明け方に平壌市内に視察に乗り出したたが、動線を把握していたトラック一台が接近し、銃を撃ったという。しかし狙撃は失敗し、トラックを追跡したところ軍部隊所属だったというのがこの話の骨子だ。

彼は続けて「北韓が核を放棄することは絶対にないだろう」とし、「もし金正恩の核放棄の意志に真正性があったなら軍部がじっとしていない」と批判した。その一例として最近、海外労働者に対する大々的な交代作業が行われたという事実に言及し、「北韓の核協議の後、内部的には人民の統制が強化された事実は、今回の核放棄の真正性を疑わせるではないか」と説明した。

彼は「核放棄の意思がない北韓の動きは、事実上のショーだと思ってもいい」とし、「米国にさしだした遺骨の送還も、もうずいぶん前から準備された」とした。

▲ 以下は一問一答を整理した

毎:遺骨送還が前から準備されたということはどういう意味か?

彼:今回送還された米軍の遺骨は、ほとんど長津(チャンヂン)湖畔一帯で発掘されたものだ。金日成の時から金正日の後半まで、北韓は長津湖半の遺骨を発掘した。この遺骨は新川6・25歴史博物館に保管されている。 2003年ごろに金正日委員長が「米国が今後、米軍の遺骨でわれわれ屈従する日があるだろう」としたが、これが現実となりつつある。どのようにして遺骨をそんなに早く発掘し送れるだろうか。すでに発掘しておいたものをいくつか送ったわけだ。

毎:脱北民は最近の北韓をめぐる情勢をどう見ているのか?

彼:率直に言って、ドナルド・トランプ米大統領は理解できない。北韓の核放棄のために行われた米国と北韓の歴史的な首脳会談の結果が遺骨送還だ。これをどのように受け入れるべきだろうか。これ以外に北韓が核放棄を行った行為が具体的にあるだろうか?

毎:プンゲリ核実験場を廃棄したのではないか

彼:プンゲリは6回目の核実験後、完全に廃墟になった状態だった。これを爆破したが、ショーでなければ何だろうか。平安北道の寧辺原子力発電所も現在、正常稼動している。 34旅団が周囲を警戒している。

毎:北韓は核放棄の意思は本当にないのか?

彼:トランプ大統領との会談後、北韓内部では「われわれの偉大な将軍様が核大国として完成させた」というタイトルの講演資料は、各道・市・郡にばらまかれた。主な内容は、われわれはいまや核保有国になったと大々的に宣伝している。これまで北韓内部では、なぜ自分たちの保有核を世界が放棄しろと言うのか理解できない雰囲気が広がっている。私自身も北韓にいるときはそうだった。ところが金正恩がこれを解決したら、北韓人民の願いを解放したも同然だ。北韓の人民はいまや金正恩が世界の指導者になったと見ている。トランプが自分たちの指導者を認めたということだ。北韓の核放棄のための世界の努力は、金正恩の偶像化に利用されてしまったのだ。そして「核を放棄してはいけない」というのは金正日の遺訓だ。もし金正恩が核放棄を本当に行う意思があるならば、軍部がじっとしてはいないだろう。軍部は金正恩の核放棄の意思がないことを知っているのでじっとしているのだ。いま金正恩に向きあっていた勢力もすべて拍手を打っている。

毎:経済を生かすための意志は本当か?

彼:その考えがあるのは明らかなようだ。しかし方法論では全くない。金正恩が視察しているところは、ほとんど軍部が管轄するところだ。 8月初めに黄海南道サムチョンのナマズ工場を視察したというニュースを見た、そこにもやはり軍部が管轄するところだ。軍部の管轄工場で生産された商品は、市場では売れない。軍部所属の工場や農場などで生産されているものは、すべて行事用贈答品になる。これが経済の活性化と何の関係があるのか。けっきょく北韓の核放棄の動きは体制安定が主目的だ。

毎:平和ムード以後、北の社会統制はちょっと緩んだか?

彼:その逆で、さらに多くの統制が強化された。確実な体制強固化作業がなされ、北韓社会を資本主義に染まらないようにしようとする雰囲気が強い。長く海外で滞在した外貨稼ぎの労働者の入れ替え作業が進められ、8月にはほぼ終わったことを聞いている。韓国のドラマを見たり音楽を聞いていて、摘発されれば処罰が強化されたと聞いた。北韓の開放意志を疑わせる部分だ。北韓では朝鮮中央テレビ、万寿台テレビ、開城テレビの3つのチャンネルしか見れないが、これらを通じて曲解された情報を伝達している。

毎:金正恩の国家経営を支える見えない勢力があるのか

彼:金正恩の叔父がいるとするが、はっきりしない。明らかになったのは保衛司令部、国家保衛省などの権力機関だ。

毎:国家保衛省はどんな機関か?

彼:北韓社会の内・外部を監視する。最近は権限が大きく強化されたという。今では保衛省が司法・検察・行政など、すべての分野をも監視する。現在、国家保衛省の首長は空席だが、実質的には金正恩が直接管轄すると見てもよい。

毎:今年、英国で国家保衛省所属の高官が亡命したというニュースがあった

彼:亡命事実はそのとおりだ。しかし名前と内容などが伝えられたものと異なる。確かなことは、亡命理由が粛清対象に上がったからだ。この人物は中国で、香港・中東・韓国・東南アジアなどで入手した情報を分析し、信頼性の高いものを金正恩に報告してきた。それほど機密を多く知る人物だ。北の高官の亡命の背景には、粛清対象リストに上がったケースがかなりある。ファン・ヂャンヨプ党書記もそうだった。しかし実際の粛清作業は保衛司令部だけが行える。

毎:女性従業員の脱北事件の真実は?

彼:北韓から中国に労働者として派遣されると、所持パスポートは中国の北韓大使館で保管するようになっている。当時の報道を見ると、パスポートを持って合法的に亡命したとされているが話にならない。介入があるとしか思えない。

毎:北韓に戻るという話があったが?

彼:既に行くことに決定したと聞いている。本人は拒否しているが、帰ることになればそれで終わりだ。

毎:天安艦爆沈の原因についてはまだ疑問を提起する人々がいる

彼:北韓の犯行が正しい。加担した人物を知っている。一人は功績を認められて英雄の称号を受け、一人は火線入黨(審議を経ずに直接入党すること)で党員になった。北韓は天安艦爆沈の関連写真を持っている。

毎:南北和解ムードで保安上の問題はないのか?

彼:大韓民国にスパイがまだ多い。二重スパイはもちろん、三重スパイもいる。捕まえないのか、捕まえられないのか…分からない。最近では合法的に入ってきて諜報活動を行う者もたくさんいるようだ。
  • 毎日経済_ムン・スイン記者 | (C) mk.co.kr
  • 入力 2018-08-28 15:29:08




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