もしかして『JSA（共同警備区域）』という映画の話を聞いたことがありますか。休戦ラインで働いていた南北の兵士たちが偶然のきっかけで友愛を交わすことになるエピソードを描いた映画です。

理念を離れて、男たちの友情を描いた2000年の最高傑作の映画です。この映画の中で、北朝鮮軍の軍曹として出てくるソン・ガンホはキム・グァンソクのファンとして登場します。それだけ、対北放送を聞いていたという証拠でしょう。

対北放送がどのような内容なのか。まず、脱北した前北朝鮮軍看護将校の証言を聞かせてあげましょう。彼女の主張に対して、一部では情報機関が作りだした話だという反論もなくはありませんが、参考に値する内容が多くあります。

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私たちが到着したところは、韓国の土地が見える所だった。目を少し凝らしただけでも、南朝鮮の太極旗が見える。ところが、早朝から南朝鮮の哨所から響いてくる放送が私たち兵士の心を揺さぶる。

「お~~~~い、師団
交代するのに苦労したな
歩いて来たのか
こっちは交代するとき、飛行機に乗っていくのに…ひひひひ
お前たちは水虫の足で苦労して歩いてきただろう、歓迎するぞ
仲良く遊ぼう」

学生時代に聞いたアナウンサーのような声に女性と男性のめまぐるしい話声、笑い声、なんで放送がこんなにも乱れているんだ。放送に息の音まで入っている。

南に向けた対南放送は何を言っているのかよく聞こえないが、北に向かってきている放送は、おならの音、咳の音、あくびする音まで聞こえる。

女性隊員と一緒に警戒所に上がると、目の前で南朝鮮の放送が聞こえる。

「女性軍人！女性軍隊だ
男の軍人、今日は気分がいいだろうな
おい、女性軍人、こっちを見てみろ。オッパがキスしてあげようか。ハハハハ」

休みなく嫌がらせをしてくる放送が私たちをより怖がらせ、いたたまれなくした。生まれて初めて聞く放送が私たちを泣かして、笑わせる。選任は憎悪する心で聞けというが、面白くて、時間がたつにつれて放送がもっと聞きたくなる。

あ~、男性たちの声が本当に柔らかい。

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北朝鮮軍が放送する対南放送は、はきはきとした響く声の女性軍人が行う政治宣伝がほとんどで、北朝鮮の歌が一部混ざっていたりするそうです。主席の恩恵で肉のスープにご飯を食べて、冬の肌着を受け取ったという内容もあり、韓国軍兵士を笑わせたりもします。

前方で働く軍人たちの任務の中には、放送内容を記録することも含まれており、たまに普段とは異なる特異な内容が出てくると、超緊張状態に入るといいます。さらに、風が強く吹く日には何の音なのか、放送がうまく聞こえず「聴取不可」と書いてしまっては「その耳をどこに使うつもりだ」と怒られたりします。

南から送出する対北放送もやはり、北朝鮮の兵士の心を動かしそうな歌詞が込められた歌が、それなりに含まれています。一線の軍人のかすかな記憶では人気歌謡をたくさん聞いたことが最も多く記憶に残っているといいます。雪の降る冬の日に北に向かって流す歌が、南の兵士たちの心も揺さぶったのです。

とにかく前方で今回再開された対北放送は、従来よりも北朝鮮を刺激したのが事実ではあります。

キム・ジョンウンの権力世襲を批判する内容は、放送内容に当然入っていて、南北韓の天気と韓国のニュース、北朝鮮の若い軍人たちが好みそうな歌も流してあげます。

対北放送に選ばれた歌を見ると、IUの『心』、少女時代の『Genie（願いを言って見て）』、BIGBANGの『BANG BANG BANG』、ノ・サヨンの『出会い』などですが、脱北住民の話を聞いてみると、北朝鮮の住民たちがよく知っている歌だそうです。

先に紹介した北朝鮮軍看護将校の証言どおりだとすれば、放送が北朝鮮軍や北朝鮮の住民の心を揺さぶった可能性もあります。南から送出する放送に含まれている北と南のニュースが北朝鮮当局が公表する内容と異なる場合は、少なくとも疑いが芽生える余地は十分にあるでしょう。

今、北朝鮮は、西側世界の度重なる経済制裁と中国側の少なくなった援助にもかかわらず、小幅ではありつつも経済が生き返っている様子だといいます。北朝鮮の経済成長は官の力によってではなく、どのような手段を使ってでも資本を蓄積した民間人によって行われているというのが専門家たちの説明です。

このような傾向は、北朝鮮当局が防ぐこともできず、住民を養って生かさなくてはいけない当局の立場では、少なくとも放置するしかない状況であるはずです。北朝鮮の統治権者は市場経済を導入しつつ、共産党1党独裁が持続する中国のモデルをマネたいところでしょう。このような構想が現実になるためには、市場経済が導入さるとしても、非常にゆっくりと、住民の心が動揺しないように徐々に進めることが重要です。

対北放送で北朝鮮指導部の行跡や、北朝鮮で新たに形成される資本家グループに対する内容、北朝鮮の物価動向などを細かく教えてあげるなら、北朝鮮内部の葛藤も誘発されるでしょう。

対北放送で流す天気情報で信頼感を得た後、南北の日常生活についてのニュースを伝えるだけでも、13年という長い軍生活に疲れた兵士と何も持たない住民を刺激することができるでしょうから、北側が放送に敏感な反応を見せるのは当然のことでしょう。電波に乗る対北放送は短波ラジオの所持禁止、妨害電波などでブロックする方法がありますが、拡声器で流してしまわれては、耳をふさいで生きろと命令することもできないというものです。

拡声器を照準爆撃するという脅しはこのような背景から出てきたものなのでしょう。