現在はYBに名前を変えたユン・ドヒョンバンドは、デビュー自体が遅かったんです。バンドがデビューした1990年代の音楽市場の状況がままならなかったうえ、所属事務所も事情があまり良くはなかったのです。

ユン・ドヒョンの1集が成功すれば、バンドを作ってあげると約束し、困難な中でデビューをしたのですが、大衆的な人気を得ることはできませんでした。19999年にリリースした『君を見送って』をタイトル曲にした4集アルバムは、韓国ロックを集大成したという好評を受けたが、大衆の反応はあまり気乗りしなかったそうです。

グループが難しくなると、メンバー間でも対立が生じました。さらに、資金難まで生じ、グループは最終的に解散してしまいました。ユン・ドヒョンは当時を回想しながら、「最も悲しかったのは解散したのに、このような事実さえ知ってくれている人がいなかったことだ」と回想したんです。

故郷に帰り、犬でも飼いながら暮らそうとしたユン・ドヒョンは、ある日、音楽番組を見ていて自分の曲『君を見送って』が10位圏に上がっていることを知ることになったのです。口コミに乗って一歩遅れて人気を得たのです。これに勇気付けられ、メンバーたちが再結成し、今日の韓国を代表する最高のロックバンドになったのでしょう。ここまで来れば逆走行したと言うに値しますよね。

韓国の逆走行歌謡の中で最も胸に悲しみを秘めた歌は、ユ・ジェハの『愛しているから』でしょう。26歳に交通事故で突然この世を去ったユ・ジェハは、歌手と呼ぶにはちょっとなんて言いますか、作曲、作詞、編曲にあらゆる楽器の伴奏まで本人が直接すべてしましたからね。

漢陽大学音楽部作曲科に通ったユ・ジェハは、チョ・ヨンピルの偉大な誕生、キム・ヒョンシクの「春夏秋冬」で活動したが、自分の音楽世界と合わないと出て、800万ウォンをかけてすべての曲の作曲、作詞、編曲をしたアルバム『愛しているから』を出します。しかし、評論家や音楽番組のPDに認められませんでした。歌唱力が不足だという理由で放送出演禁止を受ける屈辱さえ経験しました。

学校でも大衆歌謡を作る低質として扱われ、学校を叩き消してしまう考えまでしたんですね。それでも酒1杯だけ入れば、明るく陽気になるうえに、バーにピアノがあれば、主人が出て行けと言うまでピアノを演奏したりもしたそうです。

1集アルバムが出た1987年、あまり行きもしなかった同窓会に行き、友達の車に乗って帰宅中に、中央線を侵入してきたタクシーと正面衝突し、25歳で生涯を終えました。1集が不足だと言って、より良いアルバムを作るという抱負を後にしたまま。

彼がこの世を去った後、歌謡界は彼の音楽を再び照らしました。イ・ムンセはラジオ放送で泣きながら、死亡のニュースを伝え、ラジオの音楽放送では『愛しているから』と『最後の日』を飽きるほど流してくれたでしょう。

韓国の大衆音楽がユ・ジェハの以前と以降に分けられるという評があるほど、ユ・ジェハが韓国歌謡界に及ぼした影響は至大でした。何がそんなに違うかって？ユ・ジェハ以前の韓国歌謡にはいわゆる「ポンキ（韓国演歌風）」という新派調の雰囲気があったのだが、ユ・ジェハのバラードはこれを削除したということですね。

韓国バラードの新たな地平を開いたユ・ジェハが、アルバムに収録された曲を捧げた対象者は、大学1年生の時に一目惚れした女性です。ユ・ジェハが亡くなると衝撃を受け、しばらく隠遁生活をしていた彼女は、スイスに旅行に行き、入ったあるカフェで突然ユ・ジェハの歌が流れて仰天したといいます。カフェの主人に一部始終を聞くと、「韓国の旅行者から貰ったアルバムなのだけど、歌手や歌詞は分からないが、あまりにも切なくて、ときどき聞く」と言ったそうです。

韓国歌謡界で歌客、吟遊詩人という評価を聞くキム・グァンソクも、死後にさらに有名になった歌手ですね。民衆歌手出身のキム・グァンソクがよく公演したソウル大学路には、キム・グァンソクの歌碑も新しくなっています。

キム・グァンソクは、良い印象らしく性格もすごく良く、金に困った後輩がいれば、金を貸したり、舞台に立てるように手配したりしました。性格が横柄で有名な歌手イ・ウンミも、キム・グァンソクの話が出ると、懐かしさと悲しみに目頭を濡らしたりします。どこの同僚歌手たちだけだと言いますか？キム・グァンソクに感銘を受けたファンたちも多いでしょう。ある男性ファンは春川に入隊しに行き、キム・グァンソクに会ったが、キム・グァンソクが「入隊ですか？」と聞いてみたり、平気で路上で『二等兵の手紙』を歌ってくれたそうです。

『二等兵の手紙』はユン・ドヒョンが20歳で初めて歌い、チョン・イングォンも歌ったが、ユン・ドヒョンがリメイクした歌が最もよく​​知られていますよね。キム・グァンソクはこの歌を歌いながら、「子どもの頃、将校だった1番上の兄が軍で死亡したから、自分は6か月の軍服務だけになった」という家族史を紹介し、「二等兵で除隊した自分が歌を歌わなければならないと考えた」と話しました。

笑い話が混ざった悲しい事情でしょう。『二等兵の手紙』の歌詞にも、このような悲しみがついています。

短く切られた私の頭は、最初はおかしくて
鏡の中に映った自分の姿が固まる 心まで
裏山に登れば私たちの村が見えるのか

『二等兵の手紙』は、映画『共同警備区域JSA』のOSTで使用され、さらに有名になりました。映画のセリフの中で、キム・グァンソクの名前もでましたよね。

北韓（北朝鮮）軍のオ・ギョンピル軍曹の言葉だけど、北韓でもキム・グァンソクが有名だったのかは分かるはずがないですね。
「お母さんを思い出すんだなあ、ところでグァンソクがどうしてそんなに早く死んだのか？
おい、おい！グァンソクのために1杯だけ飲もう」