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「菜食主義者」の翻訳家デボラ・スミス「文章よりも精神を生かした」

    黒のジャンパードレスと濃いバーガンディのルーズフィットも、歓喜の涙腺を止めることはできなかった。先月16日(現地時間)の夜、ロンドンのある博物館でマンブッカー・インターナショナル賞のボイド・トンキン審査委員長が『ザ・ベジタリアン(The Vegetarian)』を手に握って「まさにこの本です」と叫ぶやいなや涙まみれになった20代のイギリス人。韓国人小説家の韓江(ハン・ガン、46)の2007年作『菜食主義者』に新しい命を吹き込んだデボラ・スミス氏(28)だった。

    きっちり一ヶ月が過ぎた15日、韓国文学翻訳院の招請でデボラ・スミス氏がソウル市のCOEXで開かれたソウル国際図書展を訪れた。スミス氏は、「翻訳は完璧ではないかもしれないが、原作の精神に忠実であることが翻訳の役割」だと強調し、新鋭翻訳家としての苦悩、『菜食主義者』の第一印象、韓国小説の世界化動向などについて打ち明けた。スミス氏が訪韓したのはブッカー賞以来初めてだ。

    「翻訳は控えめな仕事であり、自分自身を打ち出すことではない」という中堅翻訳家ブローダー・アンソニーの助言で話を切り出したスミス氏は、「マンブッカー・インターナショナル賞をもらったという理由で、韓国文学をよく知っているとは思わない。幸運が伴ったし、共同作業が成し遂げた成果」だと謙譲の姿勢を見せた。特に彼女は「文学の翻訳を創造的な行為に見えるように戦ってきた先輩翻訳家たちに敬意を表する」とし、「ブッカー賞は作家ハン・ガン氏と私の二人だけではなく、翻訳界全体の快挙」だと付け加えた。

    翻訳は文章の外国語化ではなく、「原作の精神」の還元であることをスミス氏は明らかにした。彼女は「原作者と作品に重い責任を感じている。どんな翻訳家も自分が原作を補強する役割ではないことを知っている」とし、「原作には不充分でありうるが、それは傲慢や不注意ではなく、原作の精神を受け継ぐ作業であることを知っているから」だと力説した。続けて「私の『菜食主義者』の翻訳は完璧ではない。しかし翻訳者は失敗することを知りながら、完璧さのために苦労している存在」だと強調した。

    原作『菜食主義者』の精神を『ザ・ベジタリアン』でどのように受け継ごうと神経を使ったのかを尋ねた。スミス氏は、「私にとって『菜食主義者』は切なさと恐怖だった」とし、「両極端に偏らず、完璧なバランスを実現しようとした。また、制御されたハン・ガンの文体が印象的で、ややもすると退屈したり、冷たく感じらることのないように気を使った」と打ち明けた。特に原作の形式をめぐって、「3部連作小説は英国では多くはないが、すべてが異なる三者の声で叙述されているが、貫通するナラティブが印象的だった」と語った。

    ノーベル賞を渇望する韓国人に対しては忠告を残した。 「韓国がノーベル賞にこれほどまで関心が高いことに当惑している。作家は良い作品を書き、その作品を読者が楽しめば作家には充分な補償」だというスミス氏は、「賞は賞であるだけ」だと線を引いた。ブッカー賞の受賞前後の生活について、彼女は「韓国では知られたが、イギリスでは全く有名ではない」とし、「メールがたくさん来たし連絡も多いが、自宅で仕事をするだけ。変わったとは感じていない」と笑った。

    英国中部ドンカスター出身のスミス氏は、ケンブリッジ大学で英文学を勉強した。翻訳家になることを決心した彼女は、ロンドンのSOAS(アジア・アフリカ地域学研究大学)で博士号を受けた。非営利出版社のTilted Axis Pressを設立し、韓国などアジア文学を発掘している。

    小説家の裵琇亞(ペ・スア)の熱烈な信奉者を自認し、『エッセイストの机』『フクロウの無き』を米国で今年と来年に出版する。ハン・ガンの新作『白』は来年の出版を予定している。

    キム・ソンゴン韓国文学翻訳院長は、「翻訳は建物を崩して資材を載せ、別の海岸に再び建てること」だというフェリペ・ソラーノの名言を借りて、この若い新鋭翻訳家をたたえた。ずっと疲れた姿で、この新鋭翻訳家は「新しい家」を建てようとするかのように会見場の出口に向かった。
  • 毎日経済_キム・ユテ記者/写真=ハン・ジュヨン記者 | (C) mk.co.kr | 入力 2016-06-15 19:17:42