A. | ニュースを検索するパソコンの前で小さなほこりを見つけて、布巾を取り出します。ほこりを拭いたついでに机の周りの掃除をする自分を見て苦笑します。 元々、きれい好きではなかったからです。 新型コロナウイルス予防の心得として提示された生活ルールに従っていると、いつの間にかきれい好きな人に変身してしまいます。 新型コロナウイルスはウイルスだけでなく細菌への恐怖を与えました。 細菌という言葉だけ聞いてもびっくりします。 あるコミュニティに「人に有益な細菌がありますか?」という質問が上がってきたのを見て驚きました。 この人はTVやCMも見ないのでしょうか?便秘解消は基本だし、がんにもいいと広告されていますが、もしかしたら乳酸菌は細菌とは考えていないような気もします。 私たちの体には数多くの微生物が住んでいます。(大便1gに50億匹の微生物がいます)消化器官に生息する微生物の数だけでも兆単位で計算しなければならないほどです。この中で大部分は特別な害も利益も与えず、ただ宿主(人)と共生するだけです。 地球村に住む人が77億人ほどいるというので、これらの微生物にとって人は一つの宇宙なのです。 自分たちが居住する宇宙に新しい細菌が入って来たらどんなことが起きるでしょうか? 当然、領土戦争が起こります。人間と共生する微生物は、自分たちの生活の場を守るため、侵入者と血のにじむような戦いを繰り広げます。宿主の白血球など心強い免疫系の支援を受けていますから、大抵は長く生存していた微生物の勝利で終わります。 細菌が嫌いだ、汚い細菌が私の体の中にあるなんて、あまりにもひどいと思った人たちが、体の中の細菌をすべてなくしたら、どんなことが起きるでしょうか?外部から入ってくる微生物を敵対する軍隊がないので、人間の暮らしは危うくなります。 人間と微生物は共生関係を形成しているのです。 2万5000個の人間の遺伝子*のうち少なくとも200個は細菌から借り受けているわけです。 *人間の遺伝子の数がいくつなのかは、まだ正確に確認されていません。最近発表された研究論文では、ヒトゲノムの遺伝子数が1万9950個に減りました。人間の遺伝子の数は、細胞が1000個しかない線虫のC. エレガンスと似ており、米ととうもろこしの粉は人間より多くの遺伝子を持っています。 ですから細菌と呼ばれる微生物は善悪を見極める前に、存在そのものが必要不可欠だと考えるのが正しいのです。人が願っても願わなくても、人に先立って地球上に登場した生命体も彼らでしょう。
それでも特別に人間に有益な細菌を知りたいですって? 先に紹介した乳酸菌と糖分をアルコールにする酵母、ペニシリンを作ってくれる青カビが代表的です。 夏場には「有名な OO飲食店で大腸菌の数が基準を超えたことが確認され、販売が中止された」という報道がたびたび出ますが、衛生検査の基準となる大腸菌も、厳密には有益な**微生物と考えた方が正しいかもしれません。 **毒性を持つ他の菌が大腸で繁殖するのを防ぎます。強い抗生剤で大腸菌が死ぬと、抗生剤に耐性を持った他の菌で消化器疾患にかかる可能性が非常に高いのです。 大腸菌が衛生検査の基準になっている理由は、この菌が腸外では増殖せず、大腸菌が食材から発見されたということは、きれいに洗っていない証拠になるからです。きれいに洗ってないので、大腸菌のほかにも腸チフスのサルモネラ菌など、人間に有害な細菌も存在する可能性が高いでしょう。 大腸菌検査が簡単なので、大腸菌数で衛生検査をするだけで、特に大腸菌が悪いからではないということを知っておいたほうがいいでしょう。 大腸菌の中にはビタミンKを合成する種類もあり成長速度が非常に速く遺伝子組み換えが簡単なので、分子生物学者にとっては非常に有用な存在です。 文章を書いていると、筆者が細菌擁護論者になったような気がします。 まだ猛威を振るっている新型コロナウイルスに対抗するには、衛生規則を徹底的に守る必要がありますが、細菌に対する漠然とした恐怖感は持たないでください。 |