A. | 韓国の言葉の中には、外国語へ翻訳しずらい単語があります。代表的な例をいくつか挙げると、コシギ、シウォンハダ、ウィリ。このほかにもたくさんありますが、トケビもその中の一つです。 「シウォンハダ」という言葉を、状況に合わせて適切に使うことができたら韓国語はマスターしたと考えてもよいそうですが、文脈によって、あまりにも様々な用途に使われるからだそうです。おそらく長い年月を経るうちに、意味が添加されたのでしょう。 トケビも歳月を経て、色々な属性が添加されたり、削除される過程を経ました。力なく、頼るところもない貧しい庶民たちは自分たちの願いをトケビに込めたことでしょう。 この汚い世界を思う存分からかいたくてトケビのいたずらを見て拍手を送ったことでしょう。結婚するお金がなくて長い冬の夜を一人で明かす独り身の人たちは、自分たちの願いをトケビの浮気性に込めたことでしょう。 トケビに愉快で、えげつなく、非凡な属性が上書きされながら、トケビは他の国ではなかなか見かけない、妙な存在になりました。あえて比べるなら、アジア各地で出没する妖怪にイスラム圏のジニー、西ヨーロッパのゴブリン(Goblin)を合わせた積集合あたりになるでしょう。もちろん、人ではないからクィシン(鬼神)であるはずです。しかし、全知全能の絶対者とは距離がある下級神程度です。 先立って、鬼面瓦に出てきたトケビの形状を紹介しましたが、日本の鬼と非常によく似てますね。
韓国にも鬼のような存在である頭を押さえつける妖怪である「トゥオクシニ」という妖怪がいましたが、今日の人々の脳裏からはほぼ忘れられた状態なので、、翻訳者もトゥオクシニは考慮の対象に含めません。 トケビが持ち歩く棒も鬼の棒とは異なります。鬼が持っている鉄の棒は武器ですが、トケビの棒は目をくらます妖術棒と見るべきです。 - イメマンリャン(魑魅魍魎) 古代中国で概念が作られた幽霊。仏教を国教にしていた統一新羅が崩壊した後、道教思想が民間に広く広がって雑神のイメマンリャンも伝わった。他人を害するあらゆる妖怪と怪物たち、善良な部分は見つけることができない。 韓国のことわざに「老いてマンリョンにかかる」という言葉があるが、マンリョンとはすなわち魍魎を指す。 - ヤチャ(夜叉 / Yaksa) 仏教とインドの神話に出てくる妖怪。超自然的な力を持っているが、供養が上手な人には財物や子孫を恵んでくれる良い面もある。 しかし、韓国ではあくまで恐れて警戒すべき対象であるだけだ。 「外見が菩薩だとすれば、胸の内は夜叉」という言葉があるほどだ。恐怖と暴力を象徴する雑神の親分だ。 丈夫な大人の男をひねって粉にするほどに力は強いが、頭がすごく悪く、子供にだまされる。歳月が過ぎて何かを得て学んだのか、最近は狡猾な怪物に変わった。代わりに、力はなくなった。 j.R.R.トールキン(Tolkien)の小説『指輪物語』に出てくるオーク(Orc)がゴブリンだ。 トールキンはゴブリンを悪の勢力の追従者として描写したが、もともとは意地悪な妖精で、いたずら好きのトケビと似ている点がある。 - ジニー アラブ世界で天使と悪魔を除くほとんどの超越的存在を通称する。英語では、Genieに翻訳されるが、正確な表現はジン(DJinn)だ。女性はジニーヤ(Jinnaye)と呼ぶ。古代遺跡の発掘作業が行われるシリアのパルミラ(Palmyra)で「優しくてご利益のある神」として崇拝する碑文も発見された。 人間は土から、ジニーは炎により作られたという。(天使は光から出てくる) ジニーは人間のように種族を成して暮らしているが、人間を助ける良いジニー、人を苦しめる邪悪なジニーの両方がいる。そのため、ジニーと接触して富と力を得ようとする者も出てくる。妖術を使いはするが、人間よりも優れた存在ではないので、正気さえ保てれば絶対に負けない。 神秘学者たちはジニーを5ランクに分類する。(韓国のトケビにも序列がある) 韓国のトケビは上に紹介したいくつかの妖怪の属性を少しずつ持ってはいますが、これと似ているというほどの比較対象はありません。時代に応じて、違う姿で現れたりもします。 昔の記事を見ると、トケビを「トッガビ」と表現した詩が発見され、一部の学者はこれを根拠に鬼を「トッ+アビ」の合成語だと主張します。ここでの、トッは豊かさを象徴する「火」と「種」を象徴し、アビは大人の男性を意味します。 このような説明通りなら、鬼は成人男性の姿でなければならのに、女のトケビ、赤ちゃんとトケビ、おじいさんトケビが飛び出した説明としては不足しています。なぜでしょうか。 トケビだからです。人を魅せてしまうからです。 (次回には、tvNドラマ『鬼』で鬼と一緒に登場する三神ハルメと死神の話をしようと思います。) |