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コラム > 人物 > 俳優オ・ヨンス「60年間で200人の人生を生きた」
「テハンノ主大監」(大学路の最古参の意)だった演劇俳優オ・ヨンス(吳永洙、78)氏は、演技人生60めで世界人が誇る「カンブ(すべてを分けることができる関係を意味する隠語)」になった。ネットフリックスドラマ『イカゲーム』が公開されてから116日ぶりの去る10日(韓国時間)、米国のゴールデングローブ賞のトロフィーを握りながらだ。韓国俳優がゴールデングローブの授賞式で、受賞者として呼名されたのは今回が初めてだ。
劇中で最後に残った玉を渡しながら「おれたちはカンブじゃないか」と、穏やかな感動を呼び起こした俳優オ・ヨンスは、いまや世界の観客・視聴者と呼吸を合わせる席に上がった。
ゴールデングローブを主管する米国ハリウッド外信記者協会(HFPA)はこの日、授賞式ホームページやフェイスブックなどのソーシャルメディアを通じて、今年の第79回ゴールデングローブ賞受賞者を発表した。俳優オ・ヨンスはゴールデングローブ・テレビシリーズドラマ部門の中で男優助演賞の候補にあがり、この日の午前11時頃にはいち早く受賞者名簿に名前を上げた。期待を集めた『イカゲーム』の作品賞受賞、俳優イ・ジョンジェ氏の男優主演賞受賞は不発だったが、韓国俳優の初ゴールデングローブ賞受賞は史上初の事だ。
受賞の事実が伝えられた直後、オ・ヨンスはネットフリックスを通じて「受賞のニュースを聞いて、生涯初めて私が私にたいした奴だと言った」とし、「もう世界の中の私たちではなく、私たちの中の世界だ。私たちの文化の香りを抱き、家族への愛を胸の奥深く抱き、世界の皆さんに感謝します」と感想を明らかにした。続いて俳優として自分を応援してくれた視聴者たちと演劇観客たちに、「美しい人生を生きてほしい。ありがとう」とも付け加えた。
「俳優」オ・ヨンスの今回のゴールデングローブ受賞は「黙々と一筋に道を歩く俳優には後悔も失敗もない」という事実をはっきりと思い起こさせる。
1944年に開城(けそん)で生まれたオ・ヨンスの演技人生は、年数で60年前の1963年に始まった。友達にしたがって劇団「広場(クァンヂャン)」に入団して演劇人の生を選んだオ・ヨンスは、一生涯に200作を超える演劇とドラマ、映画に出演した。同氏はあるマスメディアとのインタビューで、「演技を通じて200人の人生を生きた」と演技に捧げた人生の意味を回顧した。
続いて40代になった1987年からは国立劇団の団員となって舞台を守り、俳優としての誇りと自尊心を守る大俳優に成長した。
八旬(80歳)を目前にした現在も舞台を離れない。特に映画『春夏秋冬そして春』とドラマ『善徳女王』などに僧侶として出演しながら、大衆から「僧侶専門俳優」という笑えない誤解を買ったりもした。 5年前にはファン・ドンヒョク監督の前作『南漢山城』への出演を提案されたが成就しなかった。その後、ファン監督の新作ネットフリックスドラマ『イカゲーム』でオ・イルナム役として広く名前が知られた。「カンブどうしにはオレのもの、オマエのものはない」「貧乏人と金持ちの共通点は、生きるのが面白くないことだ」「見ているのはやるよりも面白いはずが無いさ」「ほんとうに今でも人を信じるのか?」など、多くの名セリフを視聴者の脳裏に刻印させて「カンブ翁」「カンブハラボジ」というニックネームを得て爆発的な反応を得た。
しかし『イカゲーム』の前例のない興行人気の中で、俳優オ・ヨンスは舞台に戻った。特に「演技を通じて再び平静心を取り戻した」と告白したりもした。最近、彼は記者懇談会で「突然浮き彫りになったので、仕事が怒涛のように押し寄せてきた。俳優として持っていた中心軸が乱れて混乱していた」とし、「自制力を失ってはいけないと思ううちに、この演劇作品がきた。幸いに平常心を取り戻した」と舞台を離れられない理由を明らかにした。オ・ヨンスは最近開幕した演劇『ラストセッション』で、オックスフォード大学の若い教授ルイスと「宗教と人間」について討論する無神論者であり精神分析学博士であるフロイト役を演じて熱演中だ。
今回のオ・ヨンスの受賞は、競争者を倒して得た成果という点でも注目を集中させる。彼が受賞したドラマ部門の助演男優賞の候補は、『ザ・モーニングショー』のビリー・クラダップ氏、『サクセション』のキーラン・カルキン氏、『ザ・モーニングショー』のマーク・デュプラス氏、『テッド・ラソ』のブレット・ゴールドスタイン氏だった。このうちでクラダップ氏は2007年の第61回トニー賞の男優助演賞を受賞した冠録ある俳優だ。
英語ではなく韓国語で演じた東アジア老年俳優の受賞は、ゴールデングローブに変化を起こすだろうという分析も出ている。大衆文化評論家のハ・ジェグン氏は「最後まで白人中心の保守性を守ったところがゴールデングローブだったが、韓国人俳優が演技賞をついに受けることになって、韓国のコンテンツが主流として確実に認められた象徴的な事件」だと評価した。
続いて「ドラマ『イカゲーム』があまりにも膨大な熱風であり、海外で高い作品性を認められたが、今回の授賞式で作品賞に乗れなかったのはゴールデングローブの最後の保守性を示すものではないかと思う」と指摘した。