やすくにのみたまを覚ます夏のかぜ

出来のよくない俳句一編で回答の代わりになれば良いのですが、そいういわけにはいかないでしょう。本当につたない作品ですが、それなりにかなり心を配っているつもりです。配列だけでも3～4回は変えました。書いて消してをなんと数十回、桜の花が登場したけれど消えて、霊が大声を張り上げる部分もしまいには削除になりました。

この文を書く者は韓国人ですので、回答することはほんとうに容易ではないです。普通の韓国人よりは「易地思之」、つまり相手の立場に立って考える心を持っているつもりですが、完全には日本人の考えに同感できないことも現実です。姿勢を正して回答を寄せるに際し、まず山野を彩った桜のように散華し、日本人の胸に残っている魂の永眠を祈ります。国家と民族を離れ、人のために命をさし出す行為はあがめ慕うに値します。

日本の首相が靖国神社を訪問するたびに、ひとしきり騒動が起こります。もしや日本には、「首相が靖国神社参拝を強行して混乱を招いている」という反対世論はありませんか？おそらく韓国の外交当局者は、日本の首相が神社に行かないことを切に願っているでしょう。職務とはいえ、強硬な声明を出さなければならなくなるからです。よしんば日本国内に反対意見があっても、韓国と中国などから反発する声明が出されれば、「首相は護国の英霊の魂を慰めに行くのになぜ他国のことに干渉をするのか」と、首相を支持する世論が大勢を成すでしょう。外国世論は靖国神社に合祀された東条英機などのA級戦犯14人を問題視しますが、このことをまったく首肯する日本人は、それほど多くないだろうとも思います。たとえA級戦犯を差し引いても、250万人近い太平洋戦争の戦没者が安置されているので、無条件に神社に行くなというわけにもいきません。

靖国神社は日本人には歴史そのものでしょう。あれこれと資料をひっくりかえしてみたところで、どうやってすべてを理解できるでしょう？文化とは唯一そこで生を営む者だけが、完全に理解できるはずのものだからです。

ふと『ヒロシマ、わが愛（邦題『二十四時間の情事』）』という映画を思い出します。映画を撮影するために広島に来たフランス人女優が、そこでぐうぜん日本人の建築家と会って2日間の愛を交わし、とどまってほしいという男の願いを拒んで去る、という内容の作品です。彼女は広島で、かつてドイツ軍兵士と愛を交わした対価として経験した凄惨な過去を回想します。女優は広島について多くの研究を行い、広島のあちこちを探索してまわりますが、日本人の建築家は「君は何も見なかった」と言います。

そのとおりです。いくら勉強をしたとしても、フランス女優が広島を知り得ないように、外国人が靖国神社をありのままに受け入れることは難しいのです。家ごとに英霊を祀る日本人を、ただしく知ることはできません。理解することも難しいでしょう。日本人が靖国神社に安置された戦没者の魂を神として崇めることは、さらにわからないのです。

私が読んだ「日本」は織田信長や徳川家康がせいぜいです。ここにあえて加えるならば、川端康成の『雪国』と推理小説ぐらい。そういえば坂本龍馬の伝記を、夜を徹して読んだ記憶があります。33歳で暗殺された龍馬に対する哀悼の気持ちとともに、「彼の死はけっきょく明治維新の糧になったのではないか」と思いました。靖国神社の歴史はその時代にまで遡りますね。韓国人の生半可な知識ですが、靖国神社がこんにちの名前を持つようになったのは、西南戦争と関連があると聞きました。西南戦争は維新三傑のうちの一人である西郷隆盛が武者たちの反発を慰撫しようと征韓論を主張したが、反対派による失脚で触発されたと聞きました。歴史の皮肉という気がします。征韓論者を打倒した主役たちの埋葬された靖国参拝が問題視されているからです。

太平洋戦争時に草芥のように命を投げた日本の若い兵士たちは、軍靴を履いて戦友たちとの約束したように靖国で出会いました。彼らの犠牲に日本人が頭を下げて冥福を祈ることは当然です。しかし、韓国人の視線は遠く広島も見つめることになるので、どうしようもありません。原子爆弾で灰になった都市、罪なく死んだ数万人の市民、たった9秒で起こった広島の惨状が、今日の平和を担保していると信じているからです。

靖国神社の性格については、確実に知ることはできません。戦時の遺跡が併置されているので、純粋な宗教施設とみることは難しいでしょうが、日本全国にある約8万の神社の中でも規模の大きい神社であることは確かでしょう。政教分離の原則を適用し、靖国神社を「国立墓地」と名称を変えるなら、首相が参拝しても国際的な騒乱を減らすことができるかもしれません。しかし、東アジアの人々がそれぞれ違うところを見つめている限り、根本的な解決策としては不十分でしょう。それに、日本国内で神社の名前を変更したり、または政教分離が可能なようでもありませんし。

お互いの視線が他の場所に向かっているいま、それぞれの癒えない傷を治癒することが急務という気もします。傷の癒えた者であればこそ、他人をいだくことができるというものでしょう。『ヒロシマ、わが愛』で、女優は恐ろしい過去の傷から癒えたようです。