記事一覧

ニュース

数字経済

テクノロジー

コラム

ビューティー

カルチャー

エンタメ

旅行

韓国Q&A

新造語辞典

もっと! コリア (Motto! KOREA)
コラム > 総合

[世智園] IT質屋

    ドストエフスキーが『罪と罰』を書いた1865年は、彼が最も不幸な時期だった。その前年に妻が亡くなり、精神的支柱だった兄さえ莫大な借金を残して死亡した。彼はすべての作品の権利と、これから書く小説一編を3000ルーブルをもらって出版業者に渡す。しかし、ギャンブルでお金をすべて失って、質屋に頻繁に出入りする状態となる。小説『罪と罰』で主人公ラスコーリニコフが社会の悪だとして殺害した人が質屋の老婆だったことも、彼の経済的困窮から始まったようだ。

    質屋はモノを担保にして、お金を貸す高利貸しの一種だ。韓国でも1960~1970年代に全盛期を謳歌したが、庶民が装飾品や高価な抵当物を担保にお金を融通することができる便利な窓口だった。しかし、他人の可哀そうな事情を利用して収入を上げるという側面から、否定的な視線も少なくなかった。ヤミ金融のように借金の督促はしないものの、相場の半分ほどのお金を貸して期限内に返済できなければ抵当されたものを処分してしまう冷酷なビジネスだ。

    質屋はクレジットカードが普及して急速に斜陽化したが、今でも韓国北東部にある江原ランド(カジノ)のある古汗(コハン)や舍北(サブク)の道には、質屋が盛業中だ。カジノでお金を失った人々が物を預けて現金を借りようと集まるからだ。しばらく姿を消していた質屋が一時的に好況を享受したのは、1997年の通貨危機の時だった。突然の景気萎縮により暮らし向きが厳しくなると、高級ハンドバッグ、時計、貴金属、ミンクのコートなどを持ち出してお金を借りるブランド族が大幅に増えた。

    その後、韓国で質屋の話はすっかり聞かなくなったと思ったが、最近、「IT質屋」という名前で復活した。スマートフォン、ノートPCなどのIT機器を主に扱うが、主な顧客は過去とは異なり、20代や30代だ。通常の物品相場の50~60%を現金で貸して月3%程度の利子を受け取る仕組みだ。銀行より敷居が低く、就職準備生や受験生など、お金に困った青年が利用するが、年率で計算すると、なんと30%の高金利だ。高級ブランド品とは異なり、IT機器は流行のサイクルが短く、融資期間が3カ月と制限されているため、お金を返すことができず、放棄する人が10人のうち2人にもなるという。フィンテック(FinTech)時代に旧世界の遺物である質屋が青年たちに好反応を得ているのは、青年失業の影がそれだけ濃いという信号だ。最悪の就職難が作り出した「新風俗度」のように片付けてしまっては苦々しい。
  • 毎日経済 シム・ユンヒ論説委員 | (C) mk.co.kr | 入力 2015-09-14 17:20:01