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[科学の香り] マーズが韓国に与えた教訓


  • [科学の香り] マーズが韓国に与えた教訓
中東呼吸器症候群(MERS / マーズ)の感染拡大が落ち着いてきたという保健福祉部の発表(19日)とは異なり、21日(日)、3人の追加確定者と2人の死者が出た。感染者172人、死亡者27人(22日基準)を記録し、韓国でのマーズ致死率は15.7%に上がった。保健福祉部の発表によると、治療を受けている人は、95人であり、14人は不安定な状態だ。また、マーズが発症する可能性があると判断して隔離されている人数は約4千人に達する。人々がマーズを恐れるしかない理由だ。しかし、一部ではマーズをインフルエンザと比較して恐怖が誇張されていると懸念を示し、またある人はマーズを過小評価したためにマーズ発症国2位という汚名を着ることになったと、安全不感症の大韓民国を叱咤している。

ワクチンのないマーズ、大丈夫か

マーズを恐れる最大の理由は、ワクチンがないということだ。ほとんどの死亡者が70~80歳で、喘息や高血圧などの慢性疾患があったとはいえ、致死率が15.7%と高く、特別な疾患がなかった40~60代の患者が死亡したりもした。また、普段から健康だった30代の医師と警察官が危険な状態に至るのを見た。そして、どの感染者も自分がマーズにかかると予想していなかった。だから、ある日突然、ワクチンのない病気に「自分が」がかかるかもしれないという、恐怖感は当然のものだ。

残念ながら、マーズにはまだワクチンが開発されていない。理由は二つに大別される。マーズはRNAウイルス系の新型コロナウイルスだ。コロナウイルスはマーズウイルスを顕微鏡で観察したとき、太陽の表面のコロナと似ているとして付けられた名称であるだけで、大きな意味はない。私たちに馴染みのある、サース(SARS)もコロナウイルスだ。

問題は、マーズがRNAウイルスだという点だ。ウイルスは情報を保存する場所に応じて、DNAウイルスとRNAウイルスに分けられるが、RNAウイルスは構造上不安定で、変化が容易に起こる。韓国で発症したマーズウイルスが中東で発見したマーズウイルスと100%一致していないのもこのためだ。

そのため、ワクチンの開発自体が容易でない。さらに、ワクチン開発には多くの時間と費用がかかるのに反して、ワクチン開発の成功率は10%未満であり、経済的な理由から開発が活発ではないという意見も多い。ロイター通信の報道によると、現在、グレフェックス(Greffex)、イノヴィオ(Inovio)、ノヴァヴァックス(Novavax)のような中小のバイオテクノロジー企業がマーズのワクチンを開発中だが、まだ臨床試験前の初期段階で、グラクソ・スミスクライン(GSK)のような大型の製薬会社は状況を観望している状況だと伝えられた。誰がワクチンを使用して、誰が費用を負担し、商業的市場が存在するかが重要な問題だが、この部分が決定されなかったということだ。したがって、現在の状況ではワクチンを期待することは難しい。

しかし、ワクチンがないからとマーズを治すことができないわけではない。治療も可能だ。マーズのようなウイルス性疾患の治療に最も多く使う治療法は対症療法だ。熱が出れば解熱剤を使い、咳が出たら咳止めの薬を使うというふうに、症状に合わせて、これを緩和させる方法だ。ここに、マーズの抗ウイルス剤であるリバビリンと免疫増強剤であるインターフェロンを活用して、ウイルスに対抗する力を育てる治療を追加する。

特にマーズが肺を攻撃して、呼吸器疾患を起こすため、呼吸器の療法が主となる。マーズは高熱と咳、痰、喉頭炎などをはじめとして、肺胞の上皮細胞に侵入して呼吸困難を起こすが、このような場合には人工呼吸器を使用して呼吸を助ける。最近、マスコミに多く紹介されたエクモ(ECMO)は、患者の体から血液を取り出し、酸素を供給した後、再度入れる装置で、体内に十分な酸素を供給することができない場合に使用する。

先週、サムスンソウル病院の医師である35番目の患者と平沢(ピョンテク)の警察官である119番目の患者に投与した血漿治療は、ワクチンがないウイルス性疾患に使用する古典的な方法だ。マーズ完治者の血液を利用した治療法で、血液中の液体成分である血漿を患者の体内に投与する。血漿にはウイルスを撃退する過程で生じたタンパク質、抗体が含まれているが、これを患者の体内に入れてウイルスと戦うようにするものだ。血漿治療は、エボラが流行していたコンゴなどで使用され、一部で効果が表れたが、まだ効果に対する臨床的根拠が不足している状態であるため、代替治療として行われている。

空気感染、可能なのか

マーズを恐れているもう一つの理由は、自分の知らないうちに感染するという点だ。今のところ、マーズ感染の97%は、病院で起こった。サムスンソウル病院では80人以上の感染者が出たが、今も続出している。このようなことが起こりえた理由は、病院の応急治療室と多人数病室の空間的特性のせいだ。マーズ患者が重篤な状態のときウイルスが最も活性化するが、このとき密閉された空間で接触した場合、感染力が非常に高いことが分かった。

応急治療室は患者が緊急の際に訪れる場所で、スペースが狭いうえに人が密集している。さらに、集まっている人たちの多くは、ウイルスの宿主となりやすい高齢者、免疫低下者、糖尿病などの疾患を持っている患者だ。また、患者を家族が直接介護し、患者のほかにも多数の部外者が見舞いに来るなど、自由に病室を出入りできる医療環境、不十分な病院の感染管理も原因として挙げられる。

何よりも応急治療室と病室は空気感染する恐れがある場所だという点が大きい。応急治療室では、人工呼吸器のために気管挿管を試みたり、または気管挿管前に痰を抜くためにサクション(吸い取る装置)を使用するため、ウイルスを多く含有するエアロゾル(数マイクロメートルサイズの小さい固体粒子や液滴、1 ㎛= 1mの100万分の1)が発生する可能性がある。エアロゾルは空気を介して移動するため、通常の咳を介して感染が起こる範囲である2メートルよりもはるかに広くなる可能性がある。

実際に平沢聖母病院では、同じ病棟にいただけでも、感染した患者がいるが、疫学調査の結果、病室のエアコンのうち3つのフィルタからマーズウイルスが検出された。感染者の咳により空気中に放出された唾液とウイルスに汚染された手で触れた患者服から出てきたホコリをエアコンが吸い込み、エアコンから冷たい空気が排出される過程でウイルスがエアロゾル状態で空気中に吐き出されながら、ウイルスが広がった可能性があるということだ。

WHO(世界保健機関)も韓国のマーズ拡散について、空気伝播の可能性を提起し、これに備えることを強調した。病院のようなエアロゾル発生の可能性がある特殊な環境では、エアコンを介したウイルス感染の拡大、ホコリを介したウイルス伝播の可能性もあるということだ。しかし、専門家は病院外での空気感染について懸念する段階ではないという意見が多い。もし空気感染が可能な場合は、地下鉄やバスなどを介して感染した人が多く発生するはずだが、まだ公共交通機関や地域社会での感染事例が現れていないからだ。

マーズ事態を解決するのに、過度の恐怖が役に立たないことは正しい。しかし、1か月でマーズにより27人が死亡し、隔離を経験したり、隔離されている人が1万人を超えた状況に至ったのは、マーズを「インフルエンザ」程度に考えて過小評価した政府の責任が大きいことを否定することができない。こういう時、信じることができるのは、残念ながら自分しかいない。人が多いところや病院に行くときはマスクを必ずして、行ってきた後には手をしっかりと洗おう。予防の規則をよく守ること。今のところ、それが私たちにできる最善だ。
  • 毎日経済_文:イ・ファヨン科学コラムニスト、コラム提供:韓国科学技術情報研究院(KISTI) | (C) mk.co.kr
  • 入力 2015-06-24 10:12:01




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