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  • Q.
    韓国で有名な陰謀論について教えて下さい:大韓航空858便爆破事件
  • A.
    大韓航空858便爆破事件

    30年が過ぎた今でも陰謀の火種がいまだに消えないままにある、恐ろしい事件があります。それはソウルオリンピックが開かれる1年前、ミャンマー近海で起きた大韓航空858便爆破事件です。

    ソウルオリンピックを妨害するために北韓(北朝鮮)が派遣した工作員が犯した事件だと公式に結論が出されましたが、まだこれを信じることは難しいという陰謀論者らがいるという話です。

    • < 映画『真由美』(1990)に出てきた場面。ボーイング社が協力を拒否したために、エアバスA300が登場する >

    1987年11月29日、イラクのバグダッド国際空港を離陸したKAL858便(HL7406)は、UAEアブダビ国際空港を経てソウルに向かう途中、インド洋上空で交信が途絶えます。航空機が行方不明になり、事件初期には突然の気象悪化や機体の故障による事故として推定されもしました。

    HL406は、1977年に金浦空港に着陸するときに油圧装置の故障で胴体着陸し、1987年2月にも前輪が出ずに緊急胴体着陸した前歴のある飛行機でした。修理を終えたあとの最初の飛行が、金浦-バグダッド航路でした。

    事故調査の過程で、中間寄港地のアブダビ空港で日本人男女が降りたという情報を入手した安全企画部は、即座に彼らを検挙しました。父と娘に偽装した男女のうち、70歳の高齢者である蜂谷真一(本名:金勝一)は検挙直後に青酸カリのアンプルを噛んで自殺しましたが、蜂谷真由美(本名:金賢姬)はアンプルを奪われたため自殺に失敗しました。

    日本の偽造パスポートを使用したことから日本に送還される予定だった彼らは、韓国政府が北韓の工作員だと強く主張してソウルに押送(護送)されました。

    • < 大統領選挙の前日にソウルに押送された金賢姫。自殺を防ぐために口を塞ぎ、その上にテープが貼ってある ?

    捜査を担当した国家安全企画部は、ソウルオリンピックを妨害するように指令を受けた北韓の工作員が、時限爆弾と液体爆発物を乗務員が発見しにくい所にこっそり置き、途中で降りるという手法で旅客機を爆破させたとの自白を得ました。そして金賢姫が旅客機に潜入するために、ハンガリーやオーストリアなどのヨーロッパを経由する過程で、朝鮮中央通信のベオグラード支部で金賢姫を目撃したという情報も確認しました。

    事件を起こした犯人である金賢姫は死刑判決を受けましたが、情報をさらに引き出して、生きている証拠として残しておこうとの目的で当時の盧泰愚大統領から電撃的に赦免を受けました。軍首脳部では特戦司令部の部隊を北韓に浸透させる報復作戦を企画しましたが、作戦は実際には行なわれなかったと伝わっています。

    この事件は第13代大統領選挙に大きな影響を及ぼしました。民主化運動の巨頭である金泳三や金大中に押されて苦戦した盧泰愚候補が、当選するところにだんぜん「一等功臣」として考えられもしました。まさにこの点が陰謀論の種なのです。大統領選挙勝利のための与党の自作自演だという陰謀論は、事件初期に広範囲に広がりました。単純な事故を北韓のしわざにしたてたという説まで登場します。

    事件発生20年後である2009年12月にも、カトリックニュースが「1987年KAL858機爆破事件は国家安全企画部の工作だ」というタイトルの記事を載せるほど、この事件を陰謀と考える人はかなり大勢いました。カトリックニュースはこの記事で、KAL機は爆破されたのではなく失踪したものだとし、金賢姫の供述以外は何らの物的証拠もないと主張しました。

    ブラックボックスはもちろん、搭乗者の遺体や遺留品などの物的証拠がほとんど無いというのが陰謀論の核心でした。とにもかくにも証拠が発見されたりしたのですが、この証拠は天安艦(陰謀論:天安艦を参照)の証拠物の「1番魚雷」とは比べ物にならない論争を引き起こしました。

    韓国海洋所属の「ダゴン1号」が発見した救命ボートが、第13代大統領選挙前に発見された唯一の証拠物でした。事故海域にビルマ(現ミャンマー)政府が船舶1400隻・快速艇4隻・戦闘機28機・民間航空機8機・軽飛行機1機を動員して捜索を繰り広げたのですが、韓国の貨物船が運良く遺留品を発見したなんて、単純に運として考えるには無理がありました。さらに人工皮革で作られた黄色の救命ボートは空気圧縮ポンプのみが破損して、内部の49種類の救命物品は完全無欠の状態でした。

    事件発生から2年後、最も発見確率が低い(?、これを陰謀論者の主張だと考える人もいる)といわれる機体の破片が発見されました。日本の朝日テレビは米国マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙学科ジョン・ハンスマン博士の主張を聞き入れて、「この破片は爆発によるものではない」という報道を流しもしました。

    陰謀論が長く続いた背景には、国家安全企画部に対する信頼が低いという点も理由にあります。

    国家安全企画部は初め、金賢姫がラジオに「コンポジション(C4)」爆薬350グラムをパナソニック製ポータブルラジオに隠したと明かしましたが、金賢姫はラジオが正常に動作したと証言しました。ところがこれほどの量の爆薬を隠そうとするなら、ラジオを空っぽにしなければならないはずなので、250グラムに訂正発表されました。

    金賢姫はこの主張の他にも、徹底した訓練を受けた工作員なのか疑問になるほど言い分がはっきりとせず、行跡も不審でした。彼女が証言した細かい個人史は、すべて偽りとして明らかになりました。特に北韓工作員との証拠として提示された、金賢姫が北韓の花童として撮ったという写真がさらに物議を醸します。

    証拠として提示された上の3枚の写真で、金賢姫は4番が自分だと主張したのですが、北韓出身のチョン・ヒソンが4番は自分であり、3番はキム・ソンヒだと明かしたために虚偽陳述になってしまったのです。

    このほかにも、国家安全企画部がスパイ操作事件を起こしたが全容が明らかになった点、事件を追跡していた日本人記者の入国を禁止した点、金賢姫がよりによって事件当時に捜査官と結婚した点、政府寄りのメディアが一様に金賢姫に好意的な点などが陰謀論を煽りました。

    盧武鉉政府時代の過去史委員会では、この事件を北韓の指令による空中爆発として結論を下しましたが、陰謀論者らの疑いを解消させるにはまだ不十分なようです。