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[コラム] 植物人間の悲鳴

    1997年12月4日、ソウルのポラメ病院の集中治療室に患者が搬送されてきました。緊急事態だったため、保護者の同意もなしに医師は手術を行いました。手術は無事に終わりましたが、脳浮腫により呼吸に問題がある状態でした。

    その後、保護者(妻)が病院に来ました。保護者は自分の同意も受けずに手術をしたとし「経済的に余裕がないから退院する」と主張しました。医師は退院をしたら患者の命が危ないと言いましたが、保護者の考えを変えることはできませんでした。医師は最終的に「患者の死に対して、病院は責任を負わない」という覚書を受け取って退院させました。

    しかし、患者は酸素呼吸器をはずした後、5分後に息を引き取りました。保護者は葬祭料の補助を受けるために警察に死亡届を出しましたが、病院側は死亡診断書を書いてはくれませんでした。死ぬことを知りながら退院させたのですから、病院の立場もちょっと曖昧な状況ではあります。警察はこの事件を病死ではない変死に分類しました。その後、夫の妹が警察に告発をして、最終的には夫人は不作為による殺人罪で懲役3年、執行猶予4年、担当の医師は殺人罪の従法で懲役1年6カ月、執行猶予2年を宣告されました。

    医師の立場としては悔しい面がなくはありませんでした。その後、生き残る可能性が全くない患者でも、病院側は退院を拒否するようになりました。退院を許可してしまっては殺人罪の判決を受けることになるので、患者の家族が懇願しても無駄です。意識のない患者を生かすため、家族の生計は苦しくなります。

    この事件が韓国で安楽死論争を巻き起こしました。その後、2008年にキムお​​ばあちゃん事件が発生します。植物人間になった高齢の女性が病院​​の集中治療室で人工​​呼吸器を付けたまま延命していましたが、子供たちは治療の中断を要求しました。さきほど明らかにした理由で病院側は患者の家族の要求を拒否します。

    家族は訴訟を起こし、2009年5月、最高裁で勝訴しました。高齢女性は人工呼吸器をはずした後、チューブで栄養の提供を受けて生存をしていましたが、2010年に息を引き取りました 「植物人間になった患者の延命治療は、無意味な身体侵害行為であり、人間の尊厳と価値にむしろ害を与える」という最高裁判所の判決は、韓国で安楽死を認めた最初の判例になりました。

    最高裁判所の判決が出た後、2013年に国家生命倫理審査委員会で、尊厳死の法律を作成するように勧告をし、今年の1月、国会で尊厳死を限定的に認める法律が作られました。この法律は2年間の猶予を経て、2018年2月から施行されます。

    尊厳死が認められるといっても、極めて例外的な場合にのみ適用されます。まず、安楽死が許容されている病気は、がん、エイズ、慢性閉塞性呼吸器疾患、慢性肝障害などにかかった末期患者です。回復の可能性が全くないと判断され、長年の治療にもかかわらず回復せず、急速に症状が悪化して死が間近に迫った患者という条件もあります。医師1人で判断してはいけません。少なくとも1人以上の該当の分野の専門医師の同意が必要です。

    このような法案が作られても、安楽死についての議論はまだ残っています。患者自身が事前に何の意思も明らかにしなかった場合、医師や家族による合意された殺人でしかないという反論もまだ激しく残っています。

    交通事故で植物人間になった患者が生き残るために懸命に戦っているとき、医師や家族が安楽死を決定した場合、助けてくれと叫ぶ無言の声は、どうするのかという主張は、かなりの説得力があるように聞こえたりします。まれに意識を取り戻す植物人間もいるので、何年ほど待たなければならないのかという議論も必要です。

    韓国は安楽死を許可する法を設けましたが、安楽死を許容する国はまだ少数に過ぎません。米国のオレゴン州、ワシントン州などのいくつかの州、カナダのケベック州、ルクセンブルク、オランダ、スイスなどが可能にしているだけです。英国とフランスなどが安楽死の許可法案を推進中ですが、まだ少数に過ぎません。快適な状態で死ぬためにスイスの病院を訪れた人はほぼ2000人に達しますが、彼らは自ら死を選んだ人々です。

    2018年に許可される尊厳死が「私を殺してくれ」という意思表現をできない患者に対する死刑であれば、安楽死を執行する医師たちの気持ちも軽くはないだろうと考えます。
  • O2CNI_Lim, Chul / 写真=photopark.com | 入力 2016-09-16 08:30:00