A. | そうです、不思議でしょう? ずいぶん前に、筆者もお湯が簡単に凍るという話を聞いて実験をしたことがあります。 実験と言ったら大げさに聞こえますが実は簡単です。 熱いコーヒーと冷めたコーヒーを同時に冷凍室に入れてみました。 本当にそうなりました。 熱い方がはるかに早く凍ります。 お湯が冷たい水より早く凍ることは、ずいぶん前から言われてきました。 紀元前4世紀の人物であるギリシャの哲学者アリストテレスも気づいたのです。 13世紀中世イギリスの哲学者ロジャー・ベーコンも「私は考える、だから私は存在する」という言葉で有名なフランスの哲学者ルネ・デカルトも知っていました。 しかし、なぜなのか科学的に説明するのが容易ではありませんでした。 アリストテレスはお湯が冷たい水より早く凍る理由をこう説明したそうです。 「火のような性質を持った者がもっと早く落ち着くもの、ある性質が周辺と反対になればその性質がもっと強化される。これを半周辺性というが、自然の本質がそうだ」(アリストテレス) もっともらしく聞こえますが、何だか詭弁みたいでしょう? 当時の科学的なレベルでは到底説明できない難題でした。紀元前4世紀ではなく今のところ正確な原因は明らかになっていません。 お湯が冷たい水よりも早く凍る現象をムペンバ(Mpemba)効果といいます。 「ムペンバ」という人が、この現象について科学的解明をしたからではなく、なぜなのか知りたがっていたからです。 疑問を提起したムペンバは、著名な学者でもジャーナリストでもありません。 1963年、アフリカ、タンザニアの中学生だったムペンバは、調理時間にアイスクリームを作るために牛乳に砂糖を入れて煮込み、焦って冷やすこともなく冷蔵庫に入れました。そして2000年前、アリストテレスのような経験をしました。 「あれ?まだ熱い牛乳の方が早くあれ?」 ムペンバは不思議がりましたが、料理の先生や友人や彼を相手にしてくれませんでした。 ムペンバは高校に進学した後、講演をしに来た物理学教授デニス・ オズボーン(Denis Osborne)に聞きました。ムペンバの言葉を聞いたデニス・ オズボーン教授は実験に着手し1969年に学術誌に「ムペンバ効果」という名前で「お湯は冷たい水より早く凍る」という事実を発表しました。 ムペンバ効果は35度と5度の水を比較する際に最もよく現れます。 英国王立学会は、「ムペンバ効果」を明らかにするのに1000ポンドの賞金までかけました。 賞金は過冷却と対流現象を原因に挙げたニコラ・ブレゴヴィッチ(Nikola Bregovic)が受け取りましたが、正確な原因が究明されたわけではありません。 本当に多くの理論が提起されました。 「お湯の表面の分子が早く分離され熱エネルギーが急速に放出され蒸発した量だけ凍らなければならない水も減るので、お湯のほうが早く凍る」 かつてはこの主張がもっとも支持を受けましたが、ふたをした状態でもお湯のほうが早く凍ることが確認され下火になりました。 他に - お湯は対流現象が活発で水の内側まで均一に冷却される。 - 冷たい水の表面には霜が生じ断熱効果を起こす。 - 溶けているイオンの影響のためだ。 - 冷たい水は過冷却現象をより容易に起こす。 - 冷たい水では気体がよりよく溶けるが、このため対流の傾向が変わる。 - お湯を冷蔵庫に入れると水の分子間の距離による熱対流など多くの要因が登場し単純な模型で提示することはできない(複雑系物理学) その後、2013年にシンガポールの東洋工科大学の研究チームがムペンバ効果の原因を水素結合と共有結合の相関関係にとらえました。 水の分子は酸素原子1つと水素原子2つの結合でできることはご存知ですよね? そして、水の分子同士も近くにいることで水になるのです。 分子同士をくっつければいいのですが、押しのける力、斥力もあるということです。熱いお湯は水の分子間の間隔が開いて斥力がなくなるということです。 それだけ余剰エネルギーを持つことになるのですが、これを放出するほうが冷却速度を速くするという説明です。 証明はこれだけでしょうか? まだだめです。 まだ一番有力な解答です。しかも2020年9月、ムペンバ効果が水だけで現れる現象ではないことが明らかになり、新しい説明が必要な状態です。 自然というものは本当に人間の常識を飛び越えます。 とにかくこれ一つは知っておいてください。 熱湯は冷たい水よりも早く溶けます。 ですから、屋根の上に雪が積もったからといってお湯をかけるようなことはしないでください。 |