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[世智園] マーズ(MERS)と現状維持バイアス


  • [世智園] マーズ(MERS)と現状維持バイアス
先月20日、米国ハワイ・真珠湾のヒッカム空軍基地を訪問したときだった。建物の壁には、日本の真珠湾空襲の跡がまだ残っていた。予期しない空襲により多くの兵士が命を失ったという。

しかし、意外な事実も知ることになった。当時、日本軍の空襲の飛行機は、米軍のレーダーにあらかじめ捕捉されていたという事実だ。ところが、米軍担当将校は「本土から来ている味方の爆撃機だ」と無視してしまった。

なぜ、この将校はそう判断したのだろうか。慣れていて快適な今の状況を維持したい人間の「現状維持バイアス(Status Quo Bias)」のせいであるようだった。人間は慣れているこれまでの状態を脱して、不確実な新しい状態に入ることを本能的に避けようとする。だから、その将校は、レーダーで捕捉された飛行機を見ては、現状維持を支持する側、つまり味方の爆撃機と判断してしまった。

中東呼吸器症候群(マーズ / MERS)に対して縮小対処した韓国政府も、明らかに現状維持バイアスに陥っている。マーズが韓国に上陸した事実と感染力がかなり高いという信号を無視しようとした。米軍将校がレーダーで捕捉された敵の戦闘機を味方だと無視したようにだ。

疾病管理本部は、最初のマーズ患者を確定してほしいという要請が入ってきたときにこれを拒否した。「他の12種類の検査から先にしろ」と医師に要求した。マーズ患者が発生すれば、不確実な新しい状況に突進しなければならない。しかし、現状維持バイアスに陥った脳は、このような状況を嫌う。

マーズ感染後の韓国政府の対処も変わらない。マーズの感染力を縮小させた。感染力が高いと認めた瞬間、慣れている従来の状態から「完全に」逸脱しなければならない。当局者の脳は、このような状況を拒否したかったのではないだろうかと思う。だから「2メートル以内、1時間以上接触してこそ感染する」「3次感染はない」と繰り返していたのではないか。

リーダーが現状維持バイアスに陥っている場合、状況は深刻になる。このようなリーダーは事態の深刻さをそのまま伝達し、非常な対策を注文する人を嫌う。楽な今の状態から脱せよと、むちを打つ人のように感じるからだ。そうなると、下の人の脳はさらにもっと「現状維持」を支持する決定を下すことになる。「病院は今ままで通り運営しよう。救急救命室だけ管理すればいいはずだ」という風にだ。いつのまにかマーズは全国に広がった。
  • 毎日経済_キム・インス論説委員 | (C) mk.co.kr
  • 入力 2015-06-15 17:20:26




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