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[コラム] 苦情によって足を引っ張られたドクターヘリ


蒸し暑い8月のある日、兵士たちが飛行場の滑走路の隣の草むらで草刈りをする。草が増えると虫が集まり、虫を捕まえようと鳥たちが群がると、戦闘機の安全運航に問題が生じるため、草刈りをするのだ。

訓練中の兵士なので適当に草刈りをすることすら考えられない。草刈りをしている時に「休め」という助教の号令を聞くと、腰を伸ばすことができずにその場にうつぶせになる。そんな兵士の頭上で8月の太陽が日差しが照りつける。

滑走路に着陸していたヘリ1機が草の上に来る。プロペラの轟音が日差しに加わる。轟音はプロペラがプレゼントした涼しい風によってすぐ忘れられる。休憩時間が終わり、再び草刈りを始める兵士たちは、遠ざかるヘリを眺める。涼しい風をプレゼントしたヘリの操縦士に対する感謝の気持ちは忘れられないだろう。

亜洲大(アジュデ)重症外傷センターのドクターヘリが、韓国社会の関心の的になった。24時間、運航が可能なドクターヘリは韓国で初めて亜洲大学病院に設置された。病院としては自負心を感じることだが、必ずしもそうではない。

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病院の入院患者もそうだが、近くの光教(クァンギョ)新都市の住民の不満は言葉で表現できないほどだ。新都市の住民の苦情のためにドクターヘリの導入も遅れた。

病院の駐車場にあったヘリポートを屋上に運び、航路を変えても苦情は消えない。うるさくて眠れないこともあるが、ほとんど全財産同然の住宅価格が下落するのではないかと心配しているからだ。アメリカやイギリスでは住宅街にもドクターヘリが下りているのに、韓国ではとんでもない話だ。

外傷センターの近くに住む住民だけではない。事故を起こした登山客を乗せるために、ヘリコプターが運航すれば、のり巻きに埃が入ると言い争い、交通事故で生命が危ない患者を移送するために道路を統制すれば、自動車の運転手たちが腹を立てる。実際に道路統制後、激しく抗議するある貨物車の運転手の姿がインターネットに流れたこともある。

住民たちの苦情で応急医療ヘリは建物の屋上から人々が住まない周辺に押し流されてしまったのが実情だ。消防隊員の命を担保し、患者の死と死闘するヘリポートも消防署の屋上から中浪川(チュンランチョン)に追い出された。洪水が起きれば水に浸かって稼動を中断するしかない所だ。

私の家族が、私の周りの親しい人々が医療ヘリの助けを受けなければならない状況になっても、依然としてプロペラの音が不満なのだろうか。

火を避けて建物の屋上に避難した人々は遠くから来るヘリコプターを見ると歓声を上げるだろう。

今、私がそのような立場に立っていないため、ただ轟音のせいで住宅価格が下がり、あれこれ統制することを嫌ってるのだ。自分がそんな境遇にいないからだ。

ある意味、韓国社会に最も重要なのは応急ヘリより易地思之の心(相手の立場になって考えること)ではないかと思う。

それも簡単なことではない。
易地思之の姿勢は君子が持つはずだから、目の前の利益に汲々としている民衆が、どうやってこのような理想郷を夢見ることができるだろうか。
  • Lim, Chul
  • 入力 2020-01-17 00:00:00




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